犬の介護と育児が重なった飼い主のつらさ知り 訪問型ペットケアサービスを開始

AI要約

大学で人と動物の関係学を学んでいた三原千尋さんは、内定を辞退して動物看護師になる決意をした。

若い夫婦のミニチュア・ダックスフントが難病にかかり、3歳で介護が必要になる。飼い主が苦しんでいることを打ち明け、三原さんは介護と治療の繋がりを感じる。

三原さんは飼い主の大変さを解消するために、病院と家庭をつなぐ何かが必要だと考える。

犬の介護と育児が重なった飼い主のつらさ知り 訪問型ペットケアサービスを開始

 愛玩動物看護師など動物看護職の方々にお話を聞く連載。愛玩動物看護師の三原千尋(みはら・ちひろ)さんのエピソードです。難病のため、3歳の若さで介護が必要になったダックス。飼い主は治療も介護も頑張っていましたが、獣医師が席を外した瞬間、三原さんに伝えたのは、思いもよらぬ胸のうちでした。

 大学で、人と動物の関係学を学んでいた三原千尋さん。

「動物看護師になるつもりはまったくなく、卒業後は動物とは無関係の企業に内定が決まっていました」と言う。

 ところが番狂わせが起きる。台風が来て、内定式が1カ月延期に。その間に、実家の猫の「小雪」が腎不全で急逝してしまう。愛らしい若い猫が突如この世を去った衝撃は、三原さんの人生の進路を、命を救う職業へと向かわせた。

「やっぱり動物看護師になろう」

 内定を辞退し、地元、神奈川県にある動物病院に就職した。

 働き始めて3年目ぐらいのこと。ミニチュア・ダックスフントを飼っている若い夫婦がいた。夫婦には2歳ぐらいの、やんちゃな男の子もいた。

「ところがワンちゃんが、難しい病気だとわかったんです」

 病気は徐々に進行し、3歳の若さで介護が必要になった。以来、飼い主であるお母さんが、ダックスと息子を連れて通院してくるようになった。病状は厳しかったが、お母さんは治療に熱心だった。

 ある日、診察室で獣医師が席を外し、お母さんと三原さんの二人きりになった。するとお母さんは三原さんに向かい、突然こんなことを話し始めたのだ。

「先生には、『介護はうまくやれている』と言ったけれど、本当はつらくて仕方がない。でも、先生は一生懸命治療してくれるから、そんなことは言えない。食事介助の時も、『なんで食べてくれないの』と、ダックスにやつ当たりしてしまう。そうおっしゃったんです」

 お母さんは人知れず追い詰められていた! だがこの時三原さんは、飼い主から苦しい胸のうちを打ち明けられ、驚くばかり。

「何て返したかは覚えていないのですが、多分、『頑張っていますよ』とか『つらいですよね』とか、本当に当たり障りのないことしか言えなかったと思います」

 ただ漠然と、こう感じたのを覚えている。「病院とお家をつなぐ、『あいだの何か』が必要なんじゃないかな――」。

 病院では治療を頑張り、家に帰れば介護がのしかかる。飼い主の大変さを解消する何かがあればいいなと、ぼんやり思えたのだ。だがこの時点では、それがいったどういう形をしたものなのかはわからなかった。