美術作品「筆談」で感想や気づき語り合おう…自由に書き込み、笑い声以外禁止「次々と新発見」

AI要約

長崎県美術館で開催された「筆談おしゃべり鑑賞会」では、参加者が色鉛筆を使いながら美術作品を鑑賞し合う新しい取り組みが行われた。

展示室には大きな模造紙が広げられ、制限時間内に思ったことや気付いた点を色鉛筆で書き込む方式が採用されている。

進行役の小笠原新也さんは耳の聞こえない鑑賞案内人として参加者に作品を楽しむ新しい視点を提供している。

 美術作品を鑑賞して気付いたことや考えたことを筆談で自由に伝え合う取り組みが、全国の美術館で広がっている。長崎県美術館(長崎市出島町)も6月23日、スペイン芸術を紹介する企画展の関連イベントとして「筆談おしゃべり鑑賞会」を初めて開いた。誰でも分け隔てなく作品の魅力を探り合うことで、気軽に芸術に親しんでもらうのが狙いだ。

 鑑賞会は午前と午後の2回開かれ、午後の参加者は9歳~70歳代の7人だった。10色の色鉛筆から好きな色を選んだ後、輪になって椅子に座り、自分のニックネームや選んだ色を紹介した。

 展示室には机が置かれ、1メートル四方を超える模造紙が広げてあった。真ん中には作品が印刷されており、展示中の実物と模造紙の間を行き来しながら、鑑賞して気付いた点や疑問点を色鉛筆で自由に書き込む方式だ。制限時間は25分で、筆談中は笑い声を除いて発話は禁止。

 開催中の企画展「果てなきスペイン美術―拓かれる表現の地平」(7日まで)では、中世から現代の絵画など約100点を展示している。筆談鑑賞の対象になったのは5点。このうち、ビセンス・ビアプラナの「光の記憶 1」は、黒を基調としたキャンバスの所々に光を思わせるかき傷状の線などが見られる作品だ。

 「隙間の光がこの人の人生、なんだか悲しい」。桃色の鉛筆を持った女性がこう書き込むと、「むしろ希望の光と感じられる、中に明るい人生が輝いているのでは」と黄緑色で返事があった。女性は、納得したように笑顔を浮かべながら「この絵が好きになった」と、さらに桃色で返した。

 「参加者は1枚の紙の上で、フラットな立場で筆談ができるんです」

 進行役を務めた小笠原新也さん(62)はこう強調する。肩書は「耳の聞こえない鑑賞案内人」だ。

 脳性まひで3歳頃まで身体の自由が利かなかったが、芸術好きの両親は幼い小笠原さんを抱え、車で各地の美術館に連れて行ってくれた。京都で特別公開されたミロのビーナス像は、おぼろげながら今でも覚えているという。