“光る君”とも呼ばれる美男のヒモニート生活。「短歌ツイート」など、タイムスリップ平安貴族の現代での生活を描く『いいね!光源氏くん』【書評】

AI要約

2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』は源氏物語を書いた紫式部が主人公。『いいね!光源氏くん』の紹介や物語の要約を含む。

光源氏が現代にタイムスリップしており、現代生活を楽しむ様子が描かれる。物語の展開やキャラクター設定について。

紫式部も納得のストーリー展開であり、光源氏と頭中将の二人の平安貴族が現代での生活を繰り広げる姿が描かれる。

“光る君”とも呼ばれる美男のヒモニート生活。「短歌ツイート」など、タイムスリップ平安貴族の現代での生活を描く『いいね!光源氏くん』【書評】

 2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』は源氏物語を書いた紫式部が主人公だ。ご存じの通り、平安時代に執筆された作品でありながら今もなお、多くの読者を魅了する源氏物語。2024年はドラマの影響もあり再注目されることだろう。そこで既に源氏物語を知っているという方に読んでいただきたいのが『いいね!光源氏くん』(えすとえむ/祥伝社)。

「源氏物語」の主人公・光源氏が現代にタイムスリップしてきた!? 居候しながら、平安貴族らしいマイペースさで現代を満喫する光源氏くんを描いたゆるっとコメディだ。2016年に第1巻が発売された全5巻。2020年と2021年にテレビドラマ化もされた。

 日々の仕事に疲れ、生活がマンネリしている藤原沙織。ある夜に突如タイムスリップしてきた光源氏を疑いつつも、自宅に居候させて面倒を見ることに。

 初めこそ戸惑っていた光源氏(光くん)だが、現代の洋服を着こなしたり、スイーツの美味しさに感動したりと現代生活を満喫していく。

 さらにはスマホを使いこなしてSNSで和歌を発信するまでに! 光くんは平安時代に帰る気はあるのだろうか…?

 皆さんにとって“光源氏”とはどんな印象だろうか。「光る君」と呼ばれるほどの美しいイケメンであり、自分自身も美しいものが好き。そして何よりも数々の女性と浮き名を流してきた恋多き男ではないだろうか。本作の光くんはそんなイメージをベースとしたキャラクターで、ふとした発言に光源氏らしさがにじみ出てくる。

 また平安貴族らしい所作の雅さもありつつも、居候の光くんは日々ボーっとして過ごし、自分ではなにもしない。面倒を見ている沙織はふと、これってニートでヒモ男じゃないか、と気づく。光源氏が現代でヒモ男になるなんて誰が想像できただろうか。トンデモ設定に思えるが、読み進めてみると「光源氏っぽいな」と感じるから不思議だ。そういえば平安貴族の光源氏は、日中に仕事しているイメージがつきにくい気がする。

 もちろん本作は「源氏物語」を知らなくても十分に楽しむことができる。しかし、物語を詳しく知っている人だから気づく小ネタがあるのも魅力。例えば、沙織との会話の中で光くんは「須磨に行くはずがこのような所に来てしまうとは」と言う。須磨といえば、朧月夜との恋により京に居られなくなった光源氏が自ら身を引いた場所だが、この一言で物語のどの辺の光源氏が現代にタイムスリップしたのかが推測できる。

 そして「源氏物語」といえば忘れていけない人物がもう一人。作中で光源氏と人気を二分する頭中将だ。「光源氏派? 頭中将派?」という究極の二択はきっと当時も今も変わらずに盛り上がる話題だろう。本作の第2巻からはなんと頭中将もタイムスリップ。中ちゃんと呼ばれ現代生活をそつなくこなす姿はさすが頭中将! 平安貴族が二人になって物語も加速していく。

 紫式部もまさか千年の時を超えて、光源氏というキャラクターの新作が生み出されているとは思いも寄らないだろう。叶うことなら紫式部にも読んでほしい、そう願いたくなる作品だ。

文=ネゴト/ Micha