「4組に1組のカップルがDV当事者」の時代に企業がDV被害者支援をする意味

AI要約

DV被害者への支援を行う企業の取り組みについて、具体的な事例を紹介。コロナ禍における在宅勤務がDV被害の増加に繋がる可能性や、企業がDV問題に直接関与することについて考察。

従業員のダイバーシティ推進の一環としてDV被害者支援を導入する企業が増加。DV問題を個人の問題から社会全体の課題として捉える動きも見られる。

女性を中心にDV被害が増加しており、DV被害者支援は女性活躍やワークライフバランスの実現にも影響を与える重要な取り組みである。

「4組に1組のカップルがDV当事者」の時代に企業がDV被害者支援をする意味

 親密な関係にある(または親密な関係にあった)相手を暴力で支配するDV。内閣府が令和5年に発表した「男女間における暴力に関する調査報告書」によると、結婚したカップルの実に約4組に1組起きており、5.5人に1人は交際相手からの暴力を経験したことがあるという。

 DVは長い間、当事者間で解決すべき問題とされてきた。しかし最近では「DVは個人の問題ではなく、社会が受け止めるべき課題だ」という認識が広まりつつある。令和6年4月1日には改正DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)が施行され、身体的DVだけでなく、言葉や態度などの精神的DVについても、保護命令を出せるようになった。ただ立証へのハードルは高く、DV根絶への取り組みはまだ十分ではない。

 そんな中、従業員のダイバーシティ推進戦略の一環としてDV被害者支援に取り組む企業も出てきている。日本で先陣を切って制度を導入したのは、監査やコンサルティング業務などを担う、大手プロフェッショナルファームのデロイト トーマツ グループだ。

 ダイバーシティ推進を背景に保活 や妊活支援、休暇制度の拡充などに取り組む企業は増えてきたが、DV被害者支援を導入する企業はまだ珍しい。企業がDV被害者支援に乗り出すことは、社会や働く人にどんなメリットをもたらすのか。制度設計を担当した現場の担当者の話から、変わりつつあるDV被害者対策と企業が取り組む意義を探っていく。

 家庭内暴力やデートDVなどのDV被害は、この20年で増加の一途をたどっている。コロナ禍では家庭内暴力など女性が抱える困難が浮き彫りになった後もDV相談は増え続け、令和5年のDVに関する警察への相談件数は全国で8万8619件と 、DV防止法施行後最多を記録した。

 デロイト トーマツ グループが社内制度として「Domestic Family Violence被害サポートスキーム」を導入したのは2021年6月、およそ3年前のことだ。

 きっかけはコロナ禍だった。「4組に1組のカップルがDVの当事者であり、コロナ禍でDVの相談件数が1.6倍に増加している というニュースに衝撃を受けた」と、制度導入を担当した同社Diversity, Equity & Inclusion マネジャー 高畑有未さんは言う。

 同社は、コロナ禍に入ってから在宅勤務体制を整備し社員に推奨していた。在宅勤務は家庭の事情がある人や子育て中の人にもメリットが大きい。高畑さんも最初は「多様なメンバーにとって働きやすくなってよかった」と、ポジティブな面だけを見ていたという。

 しかしDVについて調べていくうち、「企業が在宅勤務を推奨することは、DV加害者と被害者の接点を増やすことにつながる。企業がDVの被害拡大に間接的に関与してしまっている可能性があると気づいた」と、高畑さんは振り返る。

 DV被害者の9割は女性*という実態にも驚いた。

「弊社はグループ全体の重要経営戦略の一つとして、ダイバーシティ、イクィティ、そしてインクルージョン(Diversity, Equity & Inclusion/DEI)を掲げています。女性が参加しやすいインクルーシブな社会を目指すには、公平性と尊厳が担保されることが大前提。一方、DVは人間としての尊厳を否定するもの。多くの女性がDVで深刻な精神的ダメージを受け、離職や転居に追い込まれるなどして人生を狂わされることもあります。心身の安全や尊厳が守られていない中での女性活躍やワークライフバランスの実現はあり得ない。DV被害者支援は、それ以前のゼロベースで取り組むべき課題だと考えました」

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*令和2年に検挙した配偶者間における殺人,傷害,暴行事件の88.9%は女性が被害者というデータ(警視庁資料より/男女共同参画白書令和3年度版)。障害と暴行事件における女性被害者の割合はともに約9割を占め、殺人における被害者は女性約6割、男性約4割。

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