光を当てると冷える「半導体光学冷却」実証に千葉大学ら研究チームが成功。量子ドットをペロブスカイト結晶に埋め込んだ「ドットインクリスタル」素材で

AI要約

千葉大学・大阪大学・京都大学による研究チームは、半導体光学冷却の実証に成功した。光で物質を冷やすことが可能であり、冷却効率によっては従来の冷却システムに革新がもたらされる可能性がある。

ハロゲン化金属ペロブスカイトを使用し、アンチストークス発光現象によって光学冷却を実現。発光効率が高く、エネルギーを光の形で放出するため、物質を光で照らせば照らすほどエネルギーを失う。

量子ドットをペロブスカイト結晶中に埋め込み、ドットインクリスタル材料で光学冷却を実現。光の強度や量子ドットの制御が冷却効果に影響を与えることが確認された。

光を当てると冷える「半導体光学冷却」実証に千葉大学ら研究チームが成功。量子ドットをペロブスカイト結晶に埋め込んだ「ドットインクリスタル」素材で

千葉大学・大阪大学・京都大学による研究チームは、次世代太陽電池や発光デバイスなどへの用途が期待されている半導体材料のハロゲン化金属ペロブスカイトを用い、光で物質を冷やす「半導体光学冷却」の実証に成功したと発表しました。

光を照射するだけで物質を冷やせるということは、物理的に熱を逃がすことなく物質を冷却できることを意味するため、その冷却効率如何では従来の冷却システムを大きく変える応用が可能になるかもしれません。

たとえば、冷媒やコンプレッサーを使わない無振動無冷媒冷却技術や、熱を光に変換して輸送する新しいエネルギー利用方法が実現する可能性が考えられます。

今回の研究に用いられたハロゲン化金属ペロブスカイトは、次世代の太陽電池や、LEDのような発光デバイスを作る材料として注目されています。そして光で励起された(光エネルギーを受け取り高エネルギー状態になった)際に、元の状態に戻ろうとして光を放出する「発光」現象の効率が高いのが特徴です。

さらに、電子フォノン相互作用と呼ばれる性質によって「アンチストークス発光」と呼ばれる現象を示し、受け取った光よりも高いエネルギーを光として放出、その分自らのエネルギーを熱の形で失うために温度が低下する現象が発生します。

つまり、もしも発光効率100%以上のアンチストークス発光を示す物質があれば、その物質は光で照らせば照らすほどエネルギーを失う、光学冷却が実現するというわけです。(逆にいえば、エネルギーを光のかたちで放出するため、光は逃がす必要があります)。

過去にも、発光効率がほぼ100%の希土類イオンを分散させた結晶による実験で、上記のような光学冷却が観測されています。ただ、希土類材料は光の吸収率が小さく、また冷却効率的にも冷却デバイスとして使うのは難しいと考えられました。

また、発光現象を生じる半導体物質は、受け取った光エネルギーの密度が高くなりすぎると、発光で放出できなかった分のエネルギーを熱として放出する光加熱を生じるようになります。これがオージェ再結合と呼ばれる現象で、光学冷却の実用化に対する障害となります。

そこで、期待が持てる材料として注目されたのが、高い発光効率を持つペロブスカイトの量子ドットでした。ただ、量子ドットは壊れやすく、特にペロブスカイトは大気暴露や継続的な光照射ですぐに発光効率が下がってしまうという難点があります。そのため、研究チームは量子ドットをペロブスカイト結晶中に埋め込んで保護する格好にした「ドットインクリスタル」材料を作り、実験を行いました。

研究チームはまず、この材料でオージェ再結合がどれぐらい起こりやすいかを調べました。その結果、比較的弱めの光強度でもオージェ再結合が起こりやすく、光加熱に転じてしまうことがわかりました。つまり、この材料で光学冷却を実現するには、強度を下げた光の照射を行う必要があるということです。一方で、光が弱すぎても冷却が起こらないというジレンマもあます。

これを踏まえて、研究チームは光学冷却が起こらないように、ドットインクリスタルへの光の照射時間を細かく刻むことで、光エネルギー密度を低く保ち、選択的に発光だけを生じさせる実験を行いました。その結果、複数のドットインクリスタル試料で光学冷却が観測されたとのことです。

この研究により、光学冷却現象にはオージェ再結合によって決まる限界があり、照射する光の強度によって冷却現象がおこるものの、限界を超えると発熱現象も発生することが実証されました。

そして、光学冷却をより効率的にしていくには、量子ドットの密度を上げつつ、オージェ再結合の発生を抑える制御が必要になります。研究グループは、そのためにはサイズの大きな量子ドットを使うことが一つの手ではあるものの、発光効率を上げるのが難しくなると考えられるとし、今後は量子ドット周囲の物質を工夫することを試す必要があるとしています。

この研究に関する論文は、2024年8月29日に米国化学会の学術誌 Nano Letters に掲載されました。(DOI: 10.1021/acs.nanolett.4c02885)