LUNA SEAがアンバサダーに就任、ヤマハの「ライブの真空パック」で新しい音楽体験を

AI要約

ヤマハ株式会社とロックバンドのLUNA SEAが「ライブの真空パック」をコンセプトにした取り組みについてアンバサダー契約を結んだ。

「ライブの真空パック」は、ライブをデジタル化して保存し、リアルな音楽体験を可能にする取り組みで、新技術やシステムを使用した再現が話題となった。

アーティストや技術者からは、若い世代への音楽伝承や新しい技術の活用に期待と意欲が高い。

LUNA SEAがアンバサダーに就任、ヤマハの「ライブの真空パック」で新しい音楽体験を

ヤマハ株式会社は、ロックバンドのLUNA SEAと「ライブの真空パック」をコンセプトにした取り組みにおけるアンバサダー契約を結び、2024年9月5日に発表会を行った。登壇したのは、ヤマハ株式会社 代表執行役社長の山浦 敦氏、同ミュージックコネクト推進部 部長の三田祥二氏、同企画・開発担当の柘植秀幸氏。LUNA SEAからは、SUGIZO氏とJ氏の2名が出席した。

「ライブの真空パック」とは、その名の通りライブを“真空パック”し、無形の音楽・文化資産として保存することを目的とした取り組み。主に、実際の楽器の演奏をリアルに自動再現する「Real Sound Viewing」と、高臨場感ライブビューイングシステム「Distance Viewing」を利用し「観たくても観られなかったライブ」を保存。その体験を時間と空間を超えて提供することを可能にするという。

「Real Sound Viewing」は、アーティストのパフォーマンスをデジタル化して記録し、楽器の生音による演奏を忠実に再現するシステム。同時にスクリーンやモニターに演奏するアーティストの姿を映し出すことで、あたかもアーティスト本人がそこで演奏しているかのような臨場感あふれるバーチャルライブを実現する。今回、同システム初となるエレキギター、エレキベースでの演奏再現、および、ドラム演奏の再現力の向上を実現した。

発表会では、登壇者による技術説明とトークセッションを実施。その後、国内初となるエレキギターとエレキベースでの演奏再現のほか、ドラム演奏の再現力を体験する場として、2023年5月29日に行われたライブ「LUNA SEA Back in 鹿鳴館」を再現した。その模様をレポートしよう。

■ ライブの真空パックに触れる体験を若い世代にも届けたい

LUNA SEAのアンバサダー契約期間は2026年3月31日まで。両者は今後、ヤマハの最新技術およびテクノロジーを利用して、ライブ体験の保存や再現の機会を創出していくのだという。

これから音楽を届ける若い世代に向けて、SUGIZO氏は「僕が魂をかけて音楽をやっている大きな理由は、次の世代にバトンを渡すため」とコメントしている。

さらに「僕らの音楽が子供たちに夢や希望、光を見いだすものになれば、これほど光栄なことはありません」と語った。

「自分は若いとき、教科書に載っている音楽だけでは満足できず、好きな音楽に出会ってから人生が変わった」とJ氏。「今後『ライブの真空パック』が家でも楽しめるようになったら、飛び出してくる音楽に触れた子供たちの人生にどう影響していくのか。それを想像すると、ワクワクすることしかない」として「一人でも多くの若い子たちに届けたい」と期待を込めた。

三田氏は、学校現場にも教育版を展開している歌声合成ソフト「VOCALOID(ボーカロイド)」にも言及。「VOCALOIDを発売して、今年で20周年を迎えます。教育分野への展開も含め、今後もさらに発展させて若い世代に届けたい」とコメント。また、AIを使った新たな音声合成技術「TransVox」を使い、アーティストになりきって歌える「なりきりマイク」を紹介し、「幅広く若い世代にアピールしていきたい」と意欲を見せている。

■ アーティスト不要? 新技術「GPAP」が臨場感あふれるライブを再現

発表会の後には「ライブの真空パック」を体験できるとして、「LUNA SEA Back in 鹿鳴館」再現ライブが披露された。ステージには、演奏する姿を映す大きなスクリーンと、本人が使用するドラムセットやアンプが並ぶが、LUNA SEAはいない。

ギターとベースの再現度はもちろんのこと、驚きだったのはドラムの迫力だ。演奏時に使用されるハイハットやキックペダルの情報はセンサーで記録されているとのことだが、ペダルの踏み込みの深さや力強いドラミングが忠実に再現されていた。

また、注目すべきは「ライブの真空パック」のもう1つの柱となる「Distance Viewing」だ。これにより、音声だけでなく映像、音と連動する照明やレーザーなどの舞台演出をすべて再現する。

「Distance Viewing」には、音響・映像・照明・舞台演出などを、0.1秒のズレもなく同時に記録して再生することが求められる。ヤマハでは、ファイル形式が異なるデータをWAV形式に統一して記録・再生するシステム「GPAP(ジーパップ/General Purpose Audio Protocol)」を開発した。

従来、音声や映像にひも付く照明や舞台装置のデータを同時に再生するには、独立して記録されているデータを同期させる煩雑な処理が必要である。しかし、GPAPを用いることで、ライブの映像や照明、PAなど、すべての機器の操作データを容易にシンクロ再生できるようになる。

さらに、これらのデータはWAV形式に対応したソフトウェアで編集が可能だ。学校現場でよく使用されている「GarageBand」でも利用可能で、データはパソコンやスマートフォンでも再生できる。

このGPAPシステムは、音楽ライブ以外にもテーマパークやイルミネーションショーなどのエンターテインメント領域のほか、商業施設、VR空間における体験コンテンツの創造など、さまざまな活用が見込まれている。

ヤマハはこれまで、有形文化財の楽器による演奏を保存し、「Real Sound Viewing 筑前琵琶演奏再現」を浜松市楽器博物館で開催するほか、さまざまな取り組みを行ってきた。

これまで一度限りだったライブの感動を、後年に遺すこの取り組みは、革命的だ。今後はクラシック音楽を始めとする、多ジャンルの演奏にも応用されるという。子供たちの体験格差が課題とされる現代では、リアルな演奏に触れる機会は貴重で、まだまだ身近とはいえない。この新しい技術の活用が、ライブシーンと共に、子供たちの体験を豊かにするものであることを期待している。

(c) 2023 LUNA SEA Inc.