AWS、インテックやナウキャストなど金融業5社の業務で使われる生成AI事例を紹介

AI要約

アマゾンウェブサービスジャパン合同会社(AWSジャパン)が金融領域における業務アプリケーション、プラットフォームサービスへの生成AI組み込み事例を紹介する記者説明会を開催した。

説明会には、生成AIを業務処理に活用している5社が登壇し、生成AIの金融業への利用例を紹介した。

登壇した企業はそれぞれ、金融機関向けCRM、生命保険の募集関連文書のチェック業務、証券・保険領域のコンプライアンスチェック、コンタクトセンターでの生成AI活用、保険業向けクラウドサービスに生成AIを組み込む取り組みを紹介した。

AWS、インテックやナウキャストなど金融業5社の業務で使われる生成AI事例を紹介

 アマゾンウェブサービスジャパン合同会社(AWSジャパン)は6日、金融領域における業務アプリケーション、プラットフォームサービスへの生成AI組み込み事例を紹介する記者説明会を開催した。

 生成AIを業務処理に使うシステムを開発する企業5社を招き、「デスクトップ上での作業アシスタントとして生成AIを使うのではなく、より業務に特化した使い方をしている企業の皆さまに登壇していただいた。今回の5社のユースケースをショーケースとして活用してもらえれば」(AWSジャパン 金融開発事業本部の飯田哲夫本部長)と説明。生成AIの業務への利用例を紹介することで、さらに幅広い企業への活用を狙う。

 今回の説明会の背景として、飯田本部長は「従来のインフラプロバイダーから金融ビジネス変革の戦略パートナーを目指している」と説明。生成AIサービスとしても、Amazon Qシリーズのような構築済みアプリケーションをはじめ、アプリケーション開発のためのツールAmazon Bedrock、トレーニングと推論のためのインフラストラクチャ、Anthropicの最先端モデルであるClaudeシリーズなどを提供している。

 今回、生成AIを活用した企業として登壇したのは、インテック、キャピタル・アセット・プランニング、ナウキャスト、野村総合研究所、Finatextの5社。いずれもBedrock、Claudeなどを活用し、金融業向けサービスの生成AIを取り入れたサービスを開発している。

■ インテック:金融機関向けCRM「fcube」への組み込み

 インテックは金融機関向けCRM「fcube(エフキューブ)」に生成AIを組み込み、利用するための開発を進めている。同社は1964年に創業した独立系システムインテグレーターで、金融機関向けシステムを開発してきた実績を持っている。

 インテック バンキングビジネス事業本部 事業企画部の宮丸友輔プロダクトマネージャーは、「業務中に行うお客さま情報の検索、分析、予測といったところを効率化し、生産性向上に寄与できればと考えている。大きく2種類のユースケースを想定し、1つ目は顧客アプローチの効率化、2つ目に情報把握の短縮化実現を考えている。具体的には、異動し新しい支店に着任した際、引き継いだ案件がいまひとつよくわからない、顧客情報調査を行う負荷が高いといった声を聞いている。そこで本来は、気軽に前任者と会話できたら疑問点が早期に解決し、顧客情報も理解できるのにという声があるが、現実的には難しい。そこで我々の提供するソリューションによって、前任者が顧客とどういったコミュニケーションをとったのかをデータとして活用し、それを踏まえた顧客ニーズ抽出を、前任者に聞くような形で生成AIに問いかけることができる。いわゆる行員の代理人となるようなAIエージェントを、システム内に宿らせようとしている」と説明した。

 開発はAmazon Bedrockを軸に、AIエージェント単位でAPI化し、fcubeサービスへの迅速な組み込みができる基盤として構成。さらにfcubeサービス基盤側に、サーバーレス構成のAPIを構えることで、各種サービスで柔軟にAIエージェントを利用できるようにしている。AIエージェントとの対話データ、および営業活動や日常の業務から得られる成果を学習し、継続的な精度向上を図るデータ利活用基盤構成も実現していく。

 ロードマップとしては、2024年第2四半期からはトライアル施行として、限定的なユースケースで生成AIの効果検証とあらためてユーザーニーズの把握を行う。2024年第4四半期にはMVP1開発として、特定ユースケースに特化したAIエージェントを組み込み、部分的な生産性向上実現を目指す。2025年第1四半期にはMVP2開発として、個々の業務に適した顧客体験を提供し、全体的な業務生産性向上達成することを目指すとしている。

■ キャピタル・アセット・プランニング:生命保険の募集関連文書のチェック業務に活用

 キャピタル・アセット・プランニングは、1990年に創業したFTとITの統合実現を標榜するフィンテック企業。最新テクノロジーを活用し、生保、銀行、証券業を顧客としてきた。今回、生命保険の募集関連文書のチェック業務を行う「LibelliS」に生成AIを活用した。保険の募集文書とは、消費者向けの保険商品販売に関わる募集文書を指している。

 「当社は、保険の募集に関する領域において30年以上の経験があり、多くのノウハウを保持している。そのノウハウを生かして開発したのがLibelliSになる。バックグラウンドとして、保険の募集関連文書、募集補助資料、研修資料、簡単なパンフレットやチラシなどの文書の内容は、多くのガイドラインや規定に従うような正確性が求められ、文書のチェックや審査にかかる労力が大きくなっている。制度の変更などがあった場合には、変更も必要となるため、担当する職員には高いスキルと多くの時間が必要になる。そこでLibelliSでは、当社が培ってきた募集文書に関わるノウハウと生成AIを組み合わせることで、多くの時間がかかっていた作業をカバーする。作業担当者にかかっていた時間が大幅に短縮され、当社の検証では65%の時間削減に成功している」(キャピタル・アセット・プランニング システムソリューション第2事業部 アシスタントマネージャーの佐々木勝則氏)。

 アーキテクチャーとしては、PDF、画像などを分析するためにAmazon Bedrockを利用し、評価基準検索にはAmazon Kendra、Amazon Neptune、チェックリストやガイドライン、法令データが入ったAmazon S3を活用。回答結果生成にAmazon Bedrock、回答結果保存にAmazon DynamoDBを利用する。

 基盤モデルには大規模言語モデルClaude 3.5 Sonnetを使用しているが、「Bedrockと組み合わせて利用することで、マルチモーダル対応で単純なテキストだけでなく資料の表などを解析し、正確な情報抽出が可能となる。多岐にわたる参考情報を正確に反映し、自然言語でアウトプットすることが可能で、我々は準備やセットアップにかかる労力を最小限にすることができる」(佐々木氏)と評価する。

 2025年1月に保険会社向けにベータ版のパイロットを開始し、同年4月に正式版をリリースする計画となっている。

■ ナウキャスト:証券・保険領域のコンプライアンスチェックをAIがアシスト

 ナウキャストは2013年12月に設立され、大手金融業向けにクラウド基幹システムの提供などのビジネスを行っている。これまでにも金融機関向けにデータ基盤構築と生成AI活用のソリューションを提供してきたが、証券・保険領域のコンプライアンスチェックをAIがアシストする「Finatext Advisory Assist」を開発した。

 ナウキャスト データ&AIソリューション事業責任者の片山燎平氏「我々は、保険・証券領域の業務をかなり熟知しており、この業務のこの箇所だったらAIで結構解決できるんじゃないか?という、業務とシステムありきで開発がスタートした。ご存じない方もおられるかもしれないが、証券・保険の領域のコンプラチェックは、めちゃくちゃ非効率で、現場も課題だと感じている。1日に数十件、大きい会社であれば数百件の録音データが上がり、それを全部は聞けないので、ランダムサンプリングして、1時間ある商談を5倍速で聞き取り、問題になる部分を探し出すといった作業をしている」と前置き。

 「我々は、この作業すべてをAIで自動化するのではなく、顧客をサポートしようとしている。第一段階では、企業ごとにコンプライアンス基準を細かく入力していただき、それに基づき、コンプライアンス違反に該当している可能性がある箇所をパーセントごとに色分けをして表示する。それを見て、コンプライアンス担当者が、危なそうなものを優先的にチェックができるようになる。第二段階では、AIが保険商談のやり取りの微妙なニュアンスを全部チェックするのはまだ難しいが、何を話していたかは結構精度高く分類できる。商談の何分から何分までは問題なさそうだが、この時間帯はちょっと危うい可能性があるので優先的に確認した方がいい、といったアシスタントをしてくれる。第三段階としては、マネージャーが営業スタッフの商談の振り返りをAIによってアシストする機能を用意した」と、段階を経て開発していることを説明した。

 なお、利用者が単語登録すると自動で書き起こしモデルをチューニングし、継続的に書き起こしの精度が改善するなどのメリットがある。現在、グループ企業で利用がスタートしている。

■ NRI:コンタクトセンターでの生成AI活用を推進

 野村総合研究所(NRI)は、AWSのビジネスパートナーの中で最上位のAWSプレミアティサービス認定パートナーで、AIに関しても日本で初めてのAWS Generative AIコンピテンシーを取得している。

 同社はコンタクトセンターでの生成AI活用を進めているとのことで、NRI デジタルワークプレイス事業四部の大倉朝子シニアステムコンサルタントは「当社ではさまざまな企業にコンタクトセンターシステム導入を手がけ、2022年には松井証券のクラウドコンタクトセンターのシステム導入を担当している。AIに関しても日本発のAIソリューションTRAINAを提供しており、ここに生成AIを連携した新機能を追加する」とした。

 このTRAINAシリーズは、コンタクトセンターで働くオペレーターや管理者の業務を支援するソリューションで、「3つの機能を追加する。1つ目は通話中のオペレーターに対し、問い合わせに関連するナレッジを検索、表示する。合致したFAQがない場合には、社内マニュアルなどをもとに、生成AIが回答例を生成することでスムーズな応対を支援する。2つ目の機能は、オペレーターがお客さまとやり取りをする際、TRAINAが通話内容を自動ですべてテキスト化し、問い合わせの理由等を分析し、重要な会話を抜粋する。ただし、重要な会話の抜粋だけでは、読み返す時にちょっと見づらいっていう場面がある。そういった場合には、自然でわかりやすい要約文を生成AIが生成するようになった。最後の3つ目は、分析を行う際、生成AIが分析結果をもとに自動で考察結果を提出してくれる。これまでの考察にかかっていた手間、時間を削減することができる」と、取り組みを説明した。

 開発にあたっては、Amazon BedrockとNRIが独自開発したNLPエンジンを組み合わせることで業務の高度化を実現する。金融機関に不可欠な信頼性担保については、NRIが提供するパブリッククラウド運営サービスQUMOAを活用し、安心で安全なクラウド環境構築を目指していく。

■ Finatext:保険業向けクラウドサービス「Inspire」に生成AIを組み込み

 Finatextは2013年に設立した金融インフラ開発を手がける企業。フィンテックソリューションの開発、ビッグデータ解析などと共に金融インフラとなるBaaSを提供している。今回、保険業向けクラウドサービス「Inspire」に生成AIを組み込んで提供するための現状について発表を行った。

 「我々は、現在の保険金の支払い、査定業務が抱える課題を、生成AIを使って解決しようとしている。課題を3つ挙げると、1つ目は査定業務のナレッジ蓄積、もしくは共有が実態としてはなかなか難しいこと。2つ目は、実際に保険金請求される時、診療明細など画像を含めた情報があるが、実際に査定する時には一定以上の専門知識が必要になり、これが課題となっている。3つ目は、事業を展開する中でどんどんスケールしていくと、場合によっては加速的に業務負荷が増えていくってことが課題となる。これを生成AIラグとマルチモーダル、あとはファンクションとしての自動文章作成という機能で解決していきたいと考えている」(Finatextのリードエンジニア、山崎蓮馬氏)。

 AWSのサービスを活用し、Inspire上の商品情報や基本保険約款などをあらかじめRAGとして蓄積し、商品・約款情報として活用する。保険金請求にあたっては、査定に必要な聞き取り項目の入力、書類画像などをアップロードし、保険金を請求するが、それらの内容をRAGとして蓄積する。支払い査定作成では、商品・約款情報と保険金請求情報などを、RAGをもとにプロンプトを実行して支払い査定文書を作成する。

 こうした機能を持った保険クラウドInspireを2024年度中にリリースする予定としている。