サムスンの多彩な未来的アイデア、何をいつ製品化するかはどう決める?

AI要約

サムスンは折りたたみスマートフォンの新しい形状について研究を進めており、様々なコンセプトモデルを披露している。

製品化には技術の合理性、顧客体験の提供、既存エコシステムへの組み込みが重要であり、サムスンは慎重な判断を行っている。

また、サムスンは新たな製品カテゴリーに乗り出す決定を下す際にIoT、AI、MRなどのテクノロジーを積極的に活用している。

サムスンの多彩な未来的アイデア、何をいつ製品化するかはどう決める?

 サムスンは何年も前から折りたたみスマートフォンを販売しているが、その「Galaxy Z Fold」と「Galaxy Z Flip」は、数多くあるアイデアのほんの一部にすぎない。そのことは、同社のディスプレイ部門が、この数年の間に水面下で研究を進めているコンセプトの一端を折に触れて発表していることからも分かる。その中には、両方向に曲がるデバイスや、屏風(びょうぶ)のように曲がるデバイスのほか、手首に巻くように装着するものまである。

 しかしこれらのコンセプトは、いずれもまだコンセプトの段階に止まっている。サムスンのエグゼクティブバイスプレジデント兼カスタマーエクスペリエンス責任者であるPatrick Chomet氏は、あるガジェットを単なるアイデアから実際に買える製品に格上げすべきタイミングをどう判断しているかについて語った。これはサムスンにとって、重要な決断だ。さらに、同社は出荷台数で見れば世界最大のスマートフォンメーカーであり、その動きはモバイル業界全体の雰囲気や未来の方向性をも左右しかねない。最近ではGoogleとサムスンの連携がこれまで以上に緊密になっていることもあり、「Android」関連業界に対する影響は殊のほか大きい。

 Chomet氏は、7月に開催された製品発表イベント「Galaxy Unpacked」の直前に米CNETの取材に応じ、「私たちはさまざまな形状のスマートフォンについて検討しており、今後もそれは続けていく」と述べ、現在も「ありとあらゆる新たな形状について検討している」とした。

 同氏によれば、新しい製品カテゴリーに乗り出すかどうかの選択に関わる要素は3つあるという。最も重要なのは、その技術が合理的かどうか、そして顧客に価値ある体験を提供できるかどうかだが、新しいデバイスがすでにある製品やソフトウェア体験のエコシステムにうまく組み込めるかどうかも考慮する必要がある。同社がそうした判断を行っていることは、「Galaxy Z Flip6」や「Galaxy Z Fold6」に加え、「Galaxy Ring」や新たなAI機能などが発表された7月10日の製品発表イベントでも前面に表れていた。

 「これらの3つの動きは同時に進められている」とChomet氏は言う。「製品計画の過程では、全体を考慮しながらさまざまな要素を勘案して判断している」

 サムスンは、2020年に発表された初代Galaxy Z Flip以降、新しいカテゴリーの折りたたみ型デバイスを発表していない。その一方で、同社はそれ以降、1月のCESで展示された両方向に折り曲げることができるクラムシェル型のスマートフォン「Flex In & Out Flip」などをはじめとする、さまざまなプロトタイプを披露している。2024年のCESでは、画面が端末の上部にまで湾曲して回り込んでいる折りたたみスマートフォンである「Flex Liple」も展示された。

 また、2月のMobile World Congressで披露された、スマートウォッチのように手首に巻き付ける形のコンセプトスマートフォンも見る者に強烈な印象を残した。その他にも、S字状に2カ所で折り曲げることができるもう1つのコンセプトモデルである「Flex S」が紹介されている。これは、実質的に複数の画面を1つの持ち運び可能なデバイスに詰め込んだようなデバイスだ。

 サムスンの社長兼MX事業部長であるTM Roh氏が2022年にほのめかしていたように、これらのコンセプトモデルは、社内で検討されているアイデアのごく一部である可能性が高い。

 Roh氏は約2年前の米CNETの取材で、「(CESで)皆さんが目にしたもの以外にも、検討されているものはある」と述べている。

 ただし、折りたたみスマートフォンを取り巻く状況は、当時とは大きく変わっている。「ChatGPT」が大きな成功を収めたことで、生成AIがIT業界全体のロードマップを揺るがし、ハードウェアの目新しさだけでなく、ソフトウェアの機能や、画像エディター、チャットボットなどが重視されるようになった。またCounterpoint Researchによれば、サムスンは、GoogleやOnePlusなどの新規参入企業と、2024年の第1四半期に折りたたみスマートフォン市場で首位を獲得した華為技術(ファーウェイ)などの古参企業の両方を相手とする、これまで以上に厳しい競争に直面している。

 同社の目新しいコンセプトモデルが実際に製品化されるかどうかは分からない。ただしサムスンは、QualcommおよびGoogleと協力して複合現実(MR)に関する新たな秘密プロジェクトに取り組んでいる。このプロジェクトの存在が明かされたのは、2023年始めに開催されたUnpackedでのことだ。その後、Googleのプラットフォームおよびデバイス担当シニアバイスプレジデントを務めるRick Osterloh氏は、2024年7月のUnpackedでこのプロジェクトについて簡単に言及した。同氏は、新たに詳しい情報を明かすことはなかったものの、開発は確かに進んでいると請け合った。

 同氏はステージの上で、「私たちは、サムスンおよびQualcommと緊密に連携を取りながら次世代デバイスの開発に取り組んでいる。続報に期待してほしい」と述べた。

 Chomet氏は、取材でMRに関するプロジェクトの詳細について話すことはなかった。ただし、このプロジェクトの方向性に、「マルチモーダル技術」(テキスト、カメラ、音声などのさまざまな形態の入力を扱う技術を指す)と大規模言語モデル(LLM)が大きな役割を果たしていることをほのめかした。

 サムスンのMRデバイスに対するアプローチについて尋ねると、Chomet氏は「マルチモーダルなやりとりにはコンピューティングパワーが非常に重要」であり、人間工学や光学も重要になると述べつつも、それに続けて、「しかし私は、その技術を人間にとって本当に役立つものにするのは、LLMを使用したAIだと考えている。期待していてほしい」と語った。

 この話は、サムスンとGoogleの全体的な方向性とも一致している。両社はこの数カ月間、生成AIが製品にどのような影響を与えているかを強調してきた。Galaxy Z Fold6とZ Flip6に、新たな目玉の1つとして新しく画像生成ツールが搭載されたことは記憶に新しい。一方Googleは、5月に開催した「Google I/O」で、同社のモバイルアシスタント「Gemini」や、その他のAIを活用したアプリについての最新情報を披露している。

 このMRプロジェクトの成果や、サムスンのモバイルデバイスに関する柔軟なコンセプトが具体的な製品として登場する時期は不明であり、そもそも実現するのかどうかも分からない。確かなのは、同社は今後もさまざまなアイデアを試し続けるだろうということだ。

 「私たちはこれからも実験を続けていく」とChomet氏は話した。「そして理にかなったものを発売する」

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。