Sonosは何故、今、ブランド初のヘッドホン「Ace」を開発したのか。本社幹部インタビュー

AI要約

アメリカを代表するスピーカーブランドSonosが初のワイヤレスヘッドホン「Sonos Ace」を発売。開発過程や特徴を紹介。

ヘッドホンはSonosのサウンドを追求し、他ブランドと競争する中で独自性を模索。

Sonos Aceは高性能なANCやアウェアモード、Sonos Arcとの連携機能を備えたプレミアムヘッドホン。

Sonosは何故、今、ブランド初のヘッドホン「Ace」を開発したのか。本社幹部インタビュー

アメリカを代表するスピーカーブランドであるSonosが初のワイヤレスヘッドホン「Sonos Ace」を発売した。本製品が誕生した経緯を、チーフ・プロダクト・オフィサー(CPO)であるマクシム・ブヴァ=メルラン氏にインタビューした。

■初のヘッドホンでも妥協せずに「Sonosのサウンド」を追求した

「Sonosのサウンドを外出先でも楽しめるヘッドホンがほしい」という声は、長らくSonosの製品を愛用するユーザーを中心に、ファンから多く寄せられてきた。今回、待望のヘッドホンが誕生した経緯を、ブヴァ=メルラン氏は次のように話している。

「ファンの期待に応えるヘッドホンをつくりたいという思いを、CEOのパトリック・スペンスをはじめスタッフ一同が持ち続けていました。Sonos Aceの商品企画は今から約3年前に立ち上がっています。Sonosにはスピーカーブランドとして豊富な知見がありました。

ところが、ヘッドホンはスピーカーとまったく異なるオーディオカテゴリーです。Sonosは最初のヘッドホンから完成度の高いものをファンに届けたいと考えて、2社のエキスパートを買収しました。1社がスコットランドのオーディオブランドであるRHA、もう1社がBluetooth通信ソフトウェアを長年手がける米国のT2です」(ブヴァ=メルラン氏)

Sonosがヘッドホンの開発に着手した2020年代にはもう、様々なブランドによる良質なワイヤレスヘッドホンが市場に出揃い、実力あるブランドが競い合っていた。いわばレッドオーシャンの中でSonos初のヘッドホンがどんな「強み」を発揮できるのか。ブヴァ=メルラン氏を中心とする開発チームは塾考を重ねてきた。

「装着感を含む快適さ、高音質、美しいプロダクトデザイン、そしてSonosによる既存のスピーカーシステムやホームシアター製品との連係による新たな体験を生み出すことをチームは使命として掲げました」(ブヴァ=メルラン氏)

Sonos Aceには40mm口径の振動板を核とするカスタムメイドのダイナミックドライバーが搭載されている。ヘッドホンのチューニングについて、ブヴァ=メルラン氏は「真にナチュラルなイマーシブ体験をかなえるサウンド」に狙いを定めたと振り返る。

筆者は最初にSonos Aceを聴いた時に、Sonosのスピーカーシステムによる力強い鳴りっぷりの良さとは異なる「繊細さ」の方に強い印象を持った。その後しばらく本機を使い込んでみたところ、ゆったりとした柔らかな表情も見られるようになった。

少し人見知りなところがあって、鳴らし込むほどに打ち解けてくるヘッドホンのようだ。解像感を重視するRHAによるイヤホンの印象ともまた少し違う。「Sonosらしいサウンド」が丁寧に練り上げられていると思う。

■高品位なANCと外音取り込みを実現できた理由

アクティブ・ノイズキャンセリング(ANC)とアウェアモード(外音取り込み)の完成度も高い。6月の上旬に飛行機で旅をした際に本機を持ち込んだが、ANCをオンにしたSonos Aceが航空機のノイズをすっと消してくれる。音量をむやみに上げなくてもコンテンツのサウンドが自然と耳に馴染むような感覚だった。マイルドな装着感も含めて、長時間のフライト中に聴き疲れしないヘッドホンはフリークエントトラベラーの宝だ。

さらに付け加えるならば、本機専用のキャリングケースも薄くて軽い。ケーブルなどの収納力もある。持ち込み手荷物の幅を取らずに使えるところも良かった。

効果の高いANC機能の消音機能がどのように生まれたのか、ブヴァ=メルラン氏に聞いた。

「ヘッドホンのデザインとサウンドについては、Sonosが独自のノウハウで作り上げられる自信もありました。ところがANCとアウェアモードについては、それぞれにとても複雑なポータブルオーディオならではのソフトウェアの技術と経験が必要です。その点についてはRHAとT2、それぞれの出身である仲間と一緒に新しい独自のソフトウェアを開発しました」(ブヴァ=メルラン氏)

Sonos Aceの本体には片側4基ずつ、合計8基の高性能マイクが内蔵されている。左右イヤーカップの下向きに搭載されたマイクは音声通話時のボイスピックアップにも使う。ANC専用のマイクは合計6基。例えばハンズフリー通話時には6基のANCがオンになり、同時に通話用マイクが起動する。

アウェアモードをオンにすると8基すべてのマイクが稼働する。全方位からクリアな環境音が取り込まれる印象だ。マイクに由来するノイズが環境音に混じらない。ヘッドホンを外した状態と思わず勘違いするほどだ。アウェアモードのまま音声通話を始めると、元から通話用として搭載する2基のマイクは通話音声のピックアップに役割を切り替える。

イヤーパッドによるパッシブな遮音効果を高めることにもSonosのチームは腐心した。ブヴァ=メルラン氏は「デザインのパターンを600種類以上も試しながら、ベストな遮音効果を探ってきた」と振り返る。誰でもヘッドホンを装着した状態で頭や顔が大きく見えてほしくはないものだ。頭の形に添ってヘッドバンドがスリムにフィットするデザインにすることも、開発チームが重視したポイントだった。

特徴的な「サウンドバーとの連携機能」の詳細

■ソノスのサウンドバー「Arc」とWi-Fi連係

Sonos Aceには、SonosによるDolby Atmos対応のプレミアムサウンドバー「Sonos Arc」と連係する、とても特徴的な機能がある。

2つある連係機能のうちの1つが、Arcが接続されているテレビのサウンドを、ワイヤレスでAceに飛ばして再生する機能だ。夜間のシアター再生にAceを役立てることを狙って、Sonosはこの機能を開発した。

Dolby Atmosを含むオーディオ信号のデコードとバイノーラルレンダリングはサウンドバーの側、つまりSonos Arcが引き受ける。ArcとAceの間はWi-Fi接続になるので、サラウンド信号を伝送しても音声の遅延やノイズの発生が抑えられる。

加えてAceに内蔵するモーションセンサーによりヘッドホンを装着しているユーザーの顔の向きを検知しながら、コンテンツのサウンドの定位を連動制御する「ダイナミックヘッドトラッキング」も備える。

■ArcのシアターサウンドをAceで「そのまま再現」できる

「Arc+Ace連係」のもうひとつの機能が「TrueCinema」だ。基本は上に紹介した、Sonosのサウンドバーを介してホームシアターのサウンドをヘッドホンで聴くための機能だが、その精度がTrueCinemaによってさらに高くなる。

鍵を握っているのが、Sonos Arcが対応するソノス独自のルームチューニング機能「Trueplay」だ。iOSデバイスのマイクを使って測定したユーザーのリスニングルームの音響特性データを自動取得。シアター再生の最適化を図りながら、ヘッドホンによるバイノーラルリスニングでArcの環境設定を完全に再現する機能だ。TrueplayのパラメータをSonos Aceによるリスニングにも適用して、Dolby Atmosにも対応する一段と精緻なイマーシブサウンドを実現する。

TrueCinemaの機能は2024年の後半、ソフトウェアアップデートにより加わる予定だ。ブヴァ=メルラン氏は「ヘッドホンによるイマーシブ体験の基準をスピーカーリスニングのルームセッティングに置いて、よりリアルな没入体験を探求したところにSonosらしさがある」として、この機能をSonos Arcの重要な差別化のファクターとして位置付けている。

Wi-Fiを使うワイヤレスオーディオ再生は、Bluetoothに比べるとバッテリーの消耗が大きくなる。Sonos Aceが内蔵する1060mAhの充電池は、ANCまたはアウェアモードを起動した状態で最長30時間の連続再生、または最長24時間の連続通話に対応する。これはモバイル端末やPCとBluetoothで接続した場合であり、Sonos Arcと連係するWi-Fiリスニングの際にはそれより短くなるものの、映画やドラマシリーズを連続視聴していても充電の心配はない程度には保つという。

「AceとArcの連係を使うシーンはホームリスニングを想定しているので、長時間の連続再生に対応することでユーザーの期待を十分に満たせると考えました。さらにAceには残量ゼロから、約3時間の連続再生を楽しむためのバッテリー残量を約3分間でスピードチャージできる機能もあります。おそらく不便を感じさせることはないはずです」(ブヴァ=メルラン氏)

Sonos Aceの発売時点では、ヘッドホン連係に対応するSonosのサウンドバーとして発表されている機種は Sonos Arcだけだ。ブヴァ=メルラン氏は、開発チームはコンパクトなサウンドバーであるSonos Rayの対応に向けて、現在もアクティブに動いているとしながら、「対応時期の発表は“Coming Very Soon”=もう間もなくです」とも答えている。多くのSonos製品のユーザーがそのメリットを享受できるようになる日が早く来てほしい。

価格が7万円台のANC搭載ワイヤレスヘッドホンは国内でも高額商品の部類だ。必ずしも“お手頃”とまでは言えないが、ほかのヘッドホンにはない精緻なシアター連係機能の魅力を前面に打ち出しながら、Sonosが独自のポジションを築くことができるのか、今後も注目したい。