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リコーダー奏者で指揮者の濱田芳通…古楽自由に、異才の挑戦「規則に縛られず演奏したい」
濱田芳通は古楽アンサンブル「アントネッロ」を率いる名手で、古楽界に自由な精神を吹き込んできた。
アンチ古楽と呼ばれるほど奔放な軌跡を持ち、霊感や奏者の想像力を重要視するスタンスを示している。
最近のヨーロッパの古楽界で、奏者の自由なリズム感や即興を尊重する風潮が広まっており、伝統にとらわれないアプローチが重要視されている。
リコーダーとコルネットの名手で古楽アンサンブル「アントネッロ」を率いる濱田芳通(63)は、謹厳実直な日本の古楽界に自由な精神を吹き込もうと長年奮闘してきた。その軌跡は、アンチ古楽と呼ぶにふさわしい奔放なものだ。(松本良一)
いにしえの音楽の核心部分、つまり「うたごころ」は楽譜には記されていない。それをどのように想像し、よみがえらせるか。学究的な楽譜解釈は大事だが、「それだけでは音楽は面白くならない」。霊感は奏者自身の内部にあるのだ。
17世紀オランダの作曲家、ヤコブ・ファン・エイクが残した膨大なリコーダー曲集「笛の楽園」の最新録音(キングインターナショナル)を聴いてみよう。当時の流行歌に基づく素朴なメロディーが、みずみずしい精彩を放ち、オフビートに乗って躍動する。リュートの伴奏は自作。これは「古楽」なのか?
「これまでの古楽は『歴史的に正しいという証拠がなければやってはいけない』が基本でした。でも、歴史的に誤りという証拠がなければ何をやってもいいと思うんです」
スイス・バーゼルの古楽の殿堂、スコラ・カントルムに学び、バロックはもとより中世、ルネサンスの音楽を修めた。ただし、自分は「アウトロー」だという。「演奏上の細かい規則に縛られず、一つひとつのフレーズに自らのイメージを持ち、確信をもって演奏したい」。その強い思いが、1994年の「アントネッロ」創設につながった。
レパートリーは、13世紀スペインの聖歌から日本に伝わった南蛮音楽、17世紀イタリアのオペラまで幅広い。指揮者としても活躍し、近年では18世紀のヘンデルの作品なども取り上げ、評価を高めてきた。一昨年のサントリー音楽賞受賞はその証しだ。
最近のヨーロッパの古楽界では、演奏スタイルの基本を押さえつつ、奏者の自由なリズム感や即興を尊重する風潮が広まってきた。
「リズムを正確に刻むのが正しいというクラシック音楽の教えは、せいぜい過去1世紀ぐらいの伝統にすぎない。そこから脱却すべきです」。異端の才能はいつしか正統になるだろうか。