宇垣美里「顔から血の気が引ききった」“ある事実”に気づいた瞬間一気に鳥肌が立ったワケ

AI要約

元TBSアナウンサーの宇垣美里さんが映画『関心領域』についての思いを綴ります。作品は第76回カンヌ国際映画祭や第96回アカデミー賞で賞を受賞しており、アウシュビッツ収容所と隣接する家族の物語が描かれています。

鑑賞後に感じた無念さや疑問、人間の感覚の麻痺について考察。映画が描いた家族の無関心に対し、観客の共感と疑問を引き起こす内容に触れています。

映像と音の乖離、家族の選択、人間の業に対する絶望など、映画を通じて問いかけられるテーマや描写について述べています。

宇垣美里「顔から血の気が引ききった」“ある事実”に気づいた瞬間一気に鳥肌が立ったワケ

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。

 そんな宇垣さんが映画『関心領域』についての思いを綴ります。

●作品あらすじ:空は青く、誰もが笑顔で、子どもたちの楽しげな声が聞こえ、そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から煙があがっています。

 時は1945年、ユダヤ人をはじめ強制的に連れてこられた人々に残虐行為が行われているアウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族がいました。

 第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリ、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞・音響賞を受賞した本作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)

 鑑賞後、顔から血の気が引ききって、指先が冷えて悴(かじか)んでいるのを感じた。それはどこまでも無情になれる人間の業に絶望したからでも、正体を知ってしまったあの音が耳にこびりついて離れないからでもない。

 あなたと彼らとの間にさしたる違いはあるのでしょうか?とこちらに問いかけるような眼差しを感じてしまったからだ。

 この世の誰が、あの家族を非難し石を投げ打つことができるだろう。あの人たちはわたしで、つまり世界の混沌(こんとん)とした現状の中、映画を見るような余裕のあるわたしたちだというのに。

 大きな庭付きの豪華な邸宅で豊かに暮らす一家。穏やかなその生活を追っていくうちに、彼らが住まうのはあのアウシュビッツ強制収容所と壁一個隔てただけの隣であり、一家の主人は収容所で所長として働いていることが分かる。

 無機質で淡々とした“平和な”日常の合間に漏れ聞こえる不穏な音。映像と音の乖離(かいり)に戸惑い、あの家族があまりに気にも留めないから最初は私の空耳なのかと疑ったほど。

 やがてこの人たちはあの音に慣れることを、塀の向こうにある事実を見ないふりすることを選んだのだ、と気づいた瞬間、一気に鳥肌が立った。人間とはここまで感覚を麻痺(まひ)させ無関心になり得るものなのか。