映画『ヒットマン』実話が元のクライム・コメディ

AI要約

映画ライター折田千鶴子さんがTVでオリンピックを観戦し、泣きながら深酒に酔う日常を綴った記事。

リチャード・リンクレイター監督作品『偽の殺し屋に思わず胸キュン!』のストーリーや魅力、実話とフィクションの融合について解説。

偽の殺し屋と逮捕すべき依頼者の恋愛模様が展開される中、人物のアイデンティティや幸せについて考えさせられる要素が含まれている。

映画『ヒットマン』実話が元のクライム・コメディ

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折田千鶴子さん 映画ライター

例に漏れずTVでオリンピック観戦。何度も泣きながら、美酒酔いも悪酔いも。どっちもつい深酒に。

▶偽の殺し屋に思わず胸キュン! 実話が元のクライム・コメディ

んなバカな……と噴き出しつつ、思わずキュンとしたら、まさかの実話とは驚き! 監督は賞レースを席巻した『6歳のボクが、大人になるまで。』( ’14)をはじめ、みんな大好きな珠玉の恋愛三部作『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離<ディスタンス>』( ’95)、『ビフォア・サンセット』( ’04)、『ビフォア・ミッドナイト』( ’13)などの名匠、リチャード・リンクレイター。本作でも、ユーモアとみずみずしさは健在。軽やかに、“殺し屋になりすました男の純愛”話で、大いに観客を沸かせてくれる。

ニューオリンズで猫と暮らすゲイリー(グレン・パウエル/共同脚本も)は、大学で心理学と哲学を教える地味な男。その傍ら、地元警察の“依頼殺人”捜査に、盗聴・盗撮などの技術スタッフとして協力している。ところがある日、殺し屋役の警官ジャスパーが職務停止となり、依頼者と接触する時間が迫る中、急きょゲイリーに白羽の矢が立てられ、有無を言わさず現場に投入される。“相手が望む殺し屋になれ”とのアドバイスどおり必死で取り繕っていると、予想外の見た目やまじめな受け答えが信用され、決め手の“殺害依頼”の言葉を引き出すことに成功、依頼者は逮捕される。やがて生来のきまじめさや研究熱心、心理学の応用もあってか相手に合わせてさまざまな殺し屋になり切り、次々に犯人逮捕に寄与していく。そんなある日、夫に虐待されて追い詰められたマディソン(アドリア・アルホナ)から依頼の連絡を受け、彼女好みの“セクシーな殺し屋・ロン”に変身したゲイリーは、待ち合わせ場所に向かう。

最初はオドオドしていたゲイリーが、次第に自信と充実感を深めていく様子、大学でも講義がおもしろいと人気を得たり、女子学生から“最近セクシー”とモテ始めるなど、本人自身に魅力や輝きが増していく様子に、なるほどと目から鱗が落ちそうに。ご想像どおり、(ゲイリー扮する)危険な香りのロンと美しいマディソンは惹かれ合うが、2人の実体は、偽の殺し屋と逮捕すべき依頼者。果たして2人の恋は、彼女は逮捕されるのか、虐待夫はどうなるか、すべての行方にハラハラして目が離せない。そこへ、元殺し屋役の警官ジャスパーの嫉妬が絡み、事態はますます混迷し、“んなバカな……”という予想外のほうへ転がっていく――。

実際に ’90年頃より70人以上を逮捕に導いた、ある潜入捜査官と依頼者たちがモデルというが、もちろん恋愛話はフィクション。当の女性は刑務所でなく、保護施設に送られたそう。実話ならではの驚きあり、作り話だからこそ安心して楽しめるお笑いあり。一方で2人を観ているうちに、本来の自分と新しく知る自分、どっちが本物か、どちらのほうが幸せか、どちらのほうが楽か、監督が“アイデンティティについての映画”と語るように、自己探求への興味も頭をもたげる。とはいえ頭を空っぽにして軽くエンタメを楽しみたい大人にオススメの、スリルとキュンが詰まった快作です!

・9月13日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

・公式サイト あり