作詞家・売野雅勇『め組のひと』や『夏のクラクション』歌詞の秘密「そこは隠しておかなくちゃ面白くないんだ」

AI要約

売野雅勇さんは、昭和のアイドルからCITY POPまで幅広いジャンルで名曲を手がける作詞家である。

彼はCITY POPが得意であり、特に情景や記憶を元にリアルでポエティックな歌詞を書き上げることに長けている。

作曲とは異なり、詞を先に書くことが多く、その背景には売野AIと呼ばれる創作力がある。

作詞家・売野雅勇『め組のひと』や『夏のクラクション』歌詞の秘密「そこは隠しておかなくちゃ面白くないんだ」

 中森明菜さんの「少女A」で注目を集め、以後、チェッカーズやラッツ&スターのヒット曲の数々、郷ひろみさんの「2億4千万の瞳-エキゾチック・ジャパン-」など、歴史に残る名曲を多数手がけている作詞家・売野雅勇さん。広告代理店でコピーライターとして働いていた青年が、なぜ、稀代の作詞家になれたのか。売野雅勇さんの「THE CHANGE」に迫る。【第4回/全5回】

 昭和のきら星のようなアイドルたちに、たくさんの名曲を贈ってきた売野さん。それとは別に、近年、世界的に人気となっている“CITY POP”界隈でも多数のヒット曲を手がけている。杉山清貴さんや菊池桃子さんの在籍したRAMU、稲垣潤一さんなど、枚挙にいとまがないほどだ。これらの歌詞は“売野AI”から創り出されているという。

「21世紀に入ってから、かつての“シティポップス”が“CITY POP”として再評価され、たくさんの方に聴かれているのはすごく嬉しいですね。改めて思うのは、当時の楽曲の完成度の高さです。作詞に限らず、作曲、アレンジを含めたトータルで、プロの仕事ぶりを感じます。

 僕にとって、“CITY POP”はいちばん得意な領域です。なんなら目をつぶっていても書けるんじゃないかと思うくらい、自然に言葉が出てきます。稲垣さんの「夏のクラクション」は、詞先で作られた楽曲ですが、情景が目に浮かびやすい歌詞なので、曲をつけやすかったと作曲家の筒美京平先生から言われました。そうそう、『2億4千万の瞳』や『涙のリクエスト』、『め組のひと』は、詞を先に書いたものです。

 一般的にJ‐POPはメロディーを先に作り、メロディーに合わせて後から詞を書くと言われますが、僕らの創った曲はそうでもないものも多い。ヒット曲に一般的なセオリーが当てはまるとは限らないのです。

『夏のクラクション』は、僕の実際の体験やその記憶がもとになっています。すべての海沿いのカーブにはドラマが潜んでいる、とクルマ好きの僕は三浦半島を南下する国道134号線を佐島に向かって走りながら、ふとそう思ったんです。それが原点です。記憶の中に息づいている匂いとか、感触とか、色や風を思い出したときに誰でも感じる肉感的な生々しさってあるじゃない、それがポエジーにいちばん近いんだ。僕は作詞家だから言葉にするけれど、何か素敵なことや悲しいことを思い出すとき、心の中でみんなが感じる詩情は同じものだと思います。

『め組のひと』も、僕が目にした光景を描きました。歌詞に登場する渚は、おそらく僕の記憶の中の新島です。当時、夏になると、若者がどっと押し寄せる人気のビーチで、可愛い子が多いって噂でしたが、新島って書いちゃうとリアルすぎて身も蓋もないからね、そこは隠しておかなくちゃ面白くないんだ。自分の肉体の記憶にアクセスし、取捨選択をしていくのです。いわば、売野AIみたいなものが(頭を指さし)ここにあるんです」