名物「石破茂氏の本棚」で目にした歴代自民党総裁の写真 かつて語った理想の総理総裁像

AI要約

9月12日告示の自民党総裁選に向け、複数の候補者が出馬を表明する中、過去最大の立候補者数となり、決選投票が予想される状況だ。

40代議員や複数の新顔候補者が注目される中、石破茂氏が5度目の出馬表明し、総裁選に臨む様子が描かれている。

石破氏の熱心な姿勢や特徴的な議員室の様子、過去の首相像への言及など、その人物像がクローズアップされている。

名物「石破茂氏の本棚」で目にした歴代自民党総裁の写真 かつて語った理想の総理総裁像

 9月12日告示の自民党総裁選(同27日投開票)は、これから、さまざまな候補者の出馬表明が始まる。岸田文雄首相が14日の不出馬表明会見で「『我こそは』と思う人は積極的に手を上げ、真剣な議論を戦わせてほしい」と述べたことを受けて、これまで5人が最高だった候補者数を上回り、過去最大の立候補者となる可能性も出ている。「百花繚乱(りょうらん)」というのか、大乱戦というのか、いずれにしても1度目の投票では決着がつかず上位2人の決選投票になりそうな雰囲気の中、なかなか結果は見通せないというのが、現在地の状況だ。

 8月19日に出馬表明した「コバホーク」こと小林鷹之・前安全保障相(49)や、30日に表明予定の小泉進次郎元環境(43)ら2人の40代議員をはじめ、現在浮上しているのは、総裁選に初めて臨む顔ぶれが多数。26日に出馬を表明する河野太郎デジタル相(61)は3度目の挑戦だが、その意味では石破茂元幹事長(67)の5度目の挑戦というのは、かなり目を引く数字といってもいい。

 8月24日に地元の鳥取県内の神社で支持者を前に出馬表明した石破氏は、「38年間の政治生活の集大成。最後の(総裁選の)戦いとして原点に戻り、全身全霊で支持を求めていく」と述べ、退路を断って最後の戦いに臨み、これまで届かなかった総理総裁の座を目指す思いを、時に汗だくになりながら口にした。

 国会議員の事務所に議員の取材に出向くと、議員室横にある応接室に通される。インタビューなどで多くの議員の部屋にうかがったが、この応接室の雰囲気に関し、石破氏はほかの議員と比べて、明らかに違う。 記念の置物や写真、揮毫(きごう)などシンプルなインテリアの議員が多い中、石破氏の場合はドアをあけると、大きな本棚が目に飛び込んでくる。テレビなどで映り込む場面も多いが、壁に沿って配置された本棚には専門書を中心にびっしり、さまざま書物が並ぶ。安全保障や経済、地方創生など論客で知られる石破氏的なラインアップで、政策通で知られる「頭脳」の一部を垣間見る機会でもある。「あれは国会名物」と話す自民党関係者もいる。

 本棚の空いたスペースには、置物や石破氏が好きな鉄道の関連グッズなどもある。一方、そこには、何人かの歴代自民党総裁の写真も並んでいた。

 石破氏にとって3度目の出馬となった2018年総裁選の前にインタビューした際、理想の総理像、政治家像について聞いてみたことがある。石破氏は「会ったこともない人は批評できない」とした上で、口はなめらかだった。

 政界入りのきっかけとなった田中角栄氏について「田中さんのあの何ともいえない…なんでしょうね、あの人は人ではなく神だからね。本質は、報いを求めない人に対する親切心。頭の良さも判断力もずばぬけていた。ロッキード選挙の時は、田中派の議員に『おれは田中が許せないと言って、当選してこい』と。そんな度量を持っていた」と振り返り、竹下登氏については「あそこまで忍耐に忍耐を重ね、あんなに気配りの人はいなかった」。橋本龍太郎氏については「チャーミングで本当に国のために命をかけた」と口にした。

 初入閣して防衛庁長官として仕えた小泉純一郎氏は「好き嫌いは関係なく、だれをどう使えば日本のためになるのか、という判断ができた方」。防衛相で仕えた福田康夫氏は「上司にするならこの人と思った」。さまざまに思いをめぐらせる姿が印象的だった。

 石破氏が総理総裁に届かなかったのは、同僚議員の支持が広がらないことが長く一因としてあげられてきた。ご本人も8月21日に配信されたインターネット番組で「自民党の中にいながら党を批判しているからでしょう。後ろから弾を撃つのか?と、何千回、何万回言われた」と振り返りつつ「自民党のために言っている」と譲らなかった。

 何度かインタビューをした際、いつも口にしておられたのも「今の自民党がものを言わなくなった」ということ。「ものを言うために議員になった。単に賛成を言うためじゃない。(国会議員は)総裁に任命されたわけではない。有権者の声を国会で代弁するために出てきている。やらないなら政治家としての意味はない」と論を曲げなかった。

 これまでの自民党なら、石破氏への評価は従来と変わらないかもしれない。ただ、派閥裏金事件で国民から厳しい批判にさらされているのが今の自民党。総裁選にはさまざまなチェックポイントがあると思うが、これまで同僚の支持が広がらなかった石破氏にどんな評価が出るかも、今の自民党の立ち位置をはかるバロメーターの1つのような気がする。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)