空気階段・水川かたまり、名門大学に入学も引きこもりに。「俺が本気出したらこんなもんじゃない」暗い性格のまま芸人を目指した結果

AI要約

高校生のこじらせ期からお笑い芸人としての道を歩んだ水川かたまりさんの人生振り返り。

最初は勉強もスポーツもできる優等生だったが、高校生に入り自信を失い、サッカー以外にやる気をなくす。

大学では標準語が話せなかったことやコミュニケーションの難しさに悩み、お笑いにはまり、コンビ結成9年目で優勝するまでの苦労。

空気階段・水川かたまり、名門大学に入学も引きこもりに。「俺が本気出したらこんなもんじゃない」暗い性格のまま芸人を目指した結果

家族とも仲がよくて、勉強もスポーツもできた優等生が、こじれ始めたのは高校生のとき。うまくいかないのは、まだ本気を出してないだけ。自分ならやれるはず。静かに内なる信念を持ち続ける水川かたまりさんが、自身のこじらせ期を振り返ります。

語り/水川かたまり(空気階段)

◆サッカー以外にやる気を失い、受験勉強も出遅れて

両親は仲良し。夫婦げんかは見たことないし、父はいつも僕の遊び相手になってくれて、母は教育熱心。子どものころ、落ち着きのないところはあったけれど、ひねくれる要素はまったくないまま育ち、サッカーに熱中し、勉強もできて、そこそこモテていた僕。それが変わり始めたのは、高校に入ってからでした。

進学校に入学したものの、最初のテストで下から3番目という結果に。勉強ができるという僕のアイデンティティは崩れ、それからはもういいや!と破れかぶれになりました。まったく勉強しなくなって、サッカー部の仲間と遊んでばかり。女の子から告白されるということもあったけれど、メールのやりとりもうまくできず、何も返さないうちに終わることが続きました。

サッカー以外にやる気を失っていた僕は、受験勉強も出遅れました。志望校を出せば「現実を見ろ」と先生からバカにされ、そのときにようやく目を冷ましたんです。この俺に向かって何を言うんだ。俺が本気出したら、こんなもんじゃないぞと。

それから猛勉強をして、慶應義塾大学法学部に合格。でも本当の理由は、憧れの竹内由恵さん(当時・テレビ朝日アナウンサー)がかつて在籍していたから、なんですけどね。

◆標準語でしゃべってる人はみんな嘘に聞こえました

頑張って入った大学ですが、まったくなじめませんでした。育った岡山の方言が抜けず、標準語を話せない。標準語でしゃべってる人はみんな嘘に聞こえたくらいで、もう人間不信です。話せないから友達もできません。サッカーやフットサルのサークルをのぞいてみたけれど、サークル特有のゆるい感じ、キャピキャピした感じが、僕には合いませんでした。すっかり居場所をなくした僕は、入学3か月でひとり暮らしの部屋から出なくなってしまいました。その上、入学して早々にホームシックになり、そのころから「早く結婚したい」という思いも強くなって。理想は、両親のような仲のいい夫婦。思えば、どこかで焦っていたのかもしれません。

そのころの僕を救ってくれたのは、爆笑問題のラジオ番組でした。そこからお笑いにはまり、漫才やお笑い番組のDVDを借りては見てを繰り返す毎日。見るのに飽きたら、図書館で本を借りて読んで。読み終わったらまたDVDを見て、ゲームをして。もちろん、大学に行かなかくなったことは、しばらく親には内緒でした。

その後大学を辞めて、お笑い芸人を目指してNSC (吉本総合芸能学院)に入るのですが、そのころもまだ暗かった。1年半、他人とコミュニケーションを取ってなかったので、周囲の「明るい人」がただただまぶしかったのです。でも、少し経つと「ただ明るい人」は脱落してやめていくこともわかりました。そうはなりたくない思いもあり、低いテンションのまま無理に明るくすることはやめました。

◆受け入れられないまま5~6年

ただ、そんな僕らの芸は、当時よく出ていた無限大ホールの若い女性客には、まったく受け入れられませんでした。まったくウケないし、そもそも求められない。そんな状況が5~6年は続いたんじゃないかな。そのときも、心のどこかで自分に言ってました。まだまだ。俺が本気出したら、こんなもんじゃない。

どうしてそう思えるようになったかというと、小さいころから親に怒られたことがなく、褒められて育ったことが大きいのだと思います。大人になっても仕送りは途絶えることがなく、どん底まで落ちることもなく、悲壮感はそれほどなかった。いいのか、悪いのか、「なんとかなる」自信だけはついていったのです。

コンビ結成9年目で「キングオブコント」に優勝し、環境は大きく変わりましたが、ずっとコントだけでいくという僕らコンビのやり方は、変わっていません。NSCに通っていたころ、みんなが漫才とコントの両方をやるなら、どっちかのスペシャリストになろうと、逆張りみたいな精神でそうなりました。カッコつけてたんです。でも、結局それがよかったのかな。

そして、メンタルが折れそうになったら、近くの川を見て、心を落ち着かせて。引っ越しをするときは、昔から川の近くばかりを選んできました。

◆プロポーズ前の1か月、ネットカフェ通い

2年前に結婚し、今年は子どもも生まれました。僕が何日か家をあけて久しぶりに帰ると、赤ちゃんは「誰だろうこの人」みたいな顔で見てくる。それもまあ幸せなものですが、あ、こじらせのエピソードですよね。妻にプロポーズするとき、折り紙で桜の花束を作ったんですけどね。家で作ったら彼女にバレそうなので、毎晩こっそりネットカフェに行って、個室で1時間ぐらい作って、駅のコインロッカーに入れて帰って。それを毎日繰り返すこと1か月。ずいぶんお金かっちゃいました(笑)。

そして僕自身はといえば、サッカー好きを生かして海外サッカー番組をやってみたいし、流行語大賞だって取りたいし、ダンディな大人にも憧れます。そして、どれも無理じゃないと思っています。だって、僕が本気を出したらこんなもんじゃないんだから。根拠はないですけど。(おわり)