『トトロ』の謎ポスター知ってる? バス停の女の子が「姉妹混ざってる」ワケ

AI要約

1988年に劇場公開されたスタジオジブリの代表作『となりのトトロ』の興行的な苦戦からTV放送で人気を博した経緯。

ポスターに描かれた主人公姉妹と謎の少女の違い、宮崎監督の最初のアイデアと姉妹設定への変更の経緯。

映画『となりのトトロ』の制作背景や成功の理由、『火垂るの墓』との関係、さらに宮崎監督のトトロへの思いなどについて。

『トトロ』の謎ポスター知ってる? バス停の女の子が「姉妹混ざってる」ワケ

 2024年8月23日の「金曜ロードショー」では、スタジオジブリの代表作『となりのトトロ』が放送されます。何度も同番組で放送されており、多くの人が一度は観たことがあるのではないでしょうか。

 1988年の劇場公開時、『火垂るの墓』と同時上映された『となりのトトロ』は、配給収入5億8800万円(興行収入に換算すると約11.7億円)と後のジブリ作品に比べるとあまりヒットしておらず、映画館よりもTVで観た人の数の方が多くなっているはずです。そういった方々は、『となりのトトロ』の「ポスター」を見たことがないかもしれません。

「金曜ロードショー」の公式サイトを見ると、『となりのトトロ』のアイキャッチには主人公の「サツキ」と「メイ」の姉妹、そして不思議な生物「トトロ」が雨のなかバス停で待っている有名な場面が使われています。公開当時のポスターもこの雨のなかのバス停の場面が使用されているのですが、見てみると違和感があり、たびたびネット上で話題になっているようです。

 現在もスタジオジブリの公式サイト、DVDのパッケージで使われているこの画像では、トトロの隣にいるのはみんなが知る主人公姉妹ではなく、ひとりの女の子です。この子をよく見ると、黄色い服にオレンジのスカートの服装と黒髪はサツキに似ていますが、顔つきとツインテールの髪形はメイを連想させます。この姉妹が混ざったような謎の少女は、公開当時から「誰だ」と物議をかもしてきたようです。ネット上では、「言われるまで特に疑問なくメイだと思っていた」などの意見もありました。

 なぜポスターがこのようなったのか、理由は『となりのトトロ』の主人公はもともとひとりの女の子だったことに起因します。『となりのトトロ』は、1975年に宮崎駿監督が描いた3枚のイメージボードを基にしたものです。TV放映時に「金曜ロードショー」の公式X(旧:Twitter)でも言及されたように、宮崎監督の最初のアイデアは「バス停でバスを待っていたらオバケがやってきた」というイメージだったそうで、そのときは人間の女の子はひとりでした。

 スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーの書籍「天才の思考」によると、最初は宮崎監督は『となりのトトロ』の監督をやりたがらず、『火垂るの墓』を撮った高畑勲監督に企画を持ちかけていたそうです。その後、徳間書店の山下辰巳副社長からの『となりのトトロ』1本だけの公開では不安、劇場映画ではなくビデオにするという意見で奮起したという鈴木さんは、宮崎駿監督作『となりのトトロ』、高畑勲監督作『火垂るの墓』の2本立てというアイデアを思いつき、その後徳間書店社長の徳間康快さんの協力も得て、なんとか東宝配給でこの2本立て興行を実現させました。

 そして映画の制作が始まると、『となりのトトロ』と『火垂るの墓』の上映時間の問題が発生します。最初は60分ずつだったはずの2本立てですが、先に高畑監督が『火垂るの墓』の上映時間を89分まで伸ばしてしまいました。それを聞いた宮崎監督は、もともと持っていた高畑監督への対抗心を燃やしたそうで、そこで主人公の女の子を姉妹にすることを思いつくのです。そして86分の『となりのトトロ』は、サツキとメイを主人公にして制作されました。

「天才の思考」によれば、主人公が姉妹に分かれた際にすでにバス停の場面の絵はあったとのことですが、トトロの隣の女の子をふたりに変更して描こうとしても構図がうまくいかなかったそうです。そして、宮崎監督の柔軟な発想によって「サツキとメイを合わせたもの」「メイちゃんでもないしサツキでもない」少女が誕生しました。

 宮崎監督の高畑監督への対抗心から姉妹設定への変更があった『となりのトトロ』ですが、ほかの作品とは違い、鈴木プロデューサーの語るところによれば「『トトロ』に限っては終始鼻歌を歌いながら作った映画」とのことです。同作は興行的には芳しくなかったものの、その年の「キネマ旬報」邦画1位を獲得、TV放送されると高視聴率かつぬいぐるみも大人気で、ジブリの経営を助ける作品となりました。

 また、サービス精神旺盛な宮崎監督は、当初の構想では物語冒頭からトトロを出すことも考えていたそうですが、「もう一本(『火垂るの墓』が)あるからいいか」という気持ちもあって、鈴木プロデューサーとの話し合いで現在の形になったそうです。単に2本立て、というだけでなく『となりのトトロ』の作品の成り立ちにも深く関わる『火垂るの墓』は、もう6年以上放送されていません。できれば『となりのトトロ』と2週連続でもう一度見てみたいものです。