「ツイスターズ」と「ツイスター」 〝陽性〟ディザスタームービーの系譜と進化

AI要約

「ツイスターズ」は、1996年の映画「ツイスター」の続編として企画されたが、独立した新作として完成した竜巻パニック映画である。

「ツイスター」は、竜巻を追跡するストームチェイサーたちの無謀な冒険を描いた作品であり、それまでのディザスタームービーとは異なる魅力を持っていた。

90年代のアクション映画ブームの一翼を担った「ツイスター」は、スペクタクルな竜巻シーンと共に、強烈なスリルを提供していた。

「ツイスターズ」と「ツイスター」 〝陽性〟ディザスタームービーの系譜と進化

公開中の竜巻パニック映画「ツイスターズ」(2024年)は、もともとヤン・デ・ボン監督の大ヒット作「ツイスター」(1996年)の続編として立ち上げられた企画だ。提案者は「トップガン マーヴェリック」(22年)のジョセフ・コシンスキー。当初はコシンスキーが監督を務める前提で製作サイドとの交渉が行われていたが、さまざまな検討を経て続編でもリメークでもない独立したストーリーの新作として完成した。

周知の通り、ハリウッドは70年代のパニック映画ブーム以降、ありとあらゆるシチュエーションの災害を映画化してきたが、「ツイスター」は火災、地震、火山噴火、津波などを題材にした他のディザスタームービーとは明らかに異質な作品だった。多くの災害ものは登場人物たちが逃げまどったり、閉所からの脱出を試みたりするようなプロットを定型にしているが、「ツイスター」の主人公である男女はストームチェイサー、すなわち危険極まりない竜巻を自らの意思で追跡し、可能な限り接近を図るという無鉄砲なキャラクターだった。

「ツイスター」は公開当時、竜巻のスペクタクルシーンが大きな反響を呼び、米アカデミー賞視覚効果賞にもノミネートされた。しかし本作の魅力はそれだけにとどまらない。竜巻を大空の暗雲から現れる〝怪物〟に見立て、主人公たちの車がオクラホマ州の広大な農村地帯を猛スピードで疾走するチェイスシーンが、アクション映画としての原初的なスリルを呼び起こした。

そもそも90年代はアクション映画の隆盛期だった。その嚆矢(こうし)となったのは、ご存じブルース・ウィリス主演の「ダイ・ハード」(88年)。たったひとりでテロリスト集団に立ち向かうはめになった刑事ジョン・マクレーンが、おのれの不運をボヤきながら奮闘する泥臭いヒーロー像は、アクションジャンルの新たな地平を切り開き、キアヌ・リーブス主演の「スピード」(94年)などに連なる系譜が生まれた。オランダからハリウッドに渡ったヤン・デ・ボンは「ダイ・ハード」の撮影監督を務め、「スピード」で華々しく監督デビュー。「ツイスター」はそれに続く監督第2作だった。

ディザスタームービーとしては異例の〝陽性〟の冒険活劇となった「ツイスター」は、実はスクリューボールコメディーでもあった。脚本を執筆したマイケル・クライトンはハワード・ホークス監督の「ヒズ・ガール・フライデー」(40年)を参考にしたそうで、劇中には離婚協議中の主人公ジョー(ヘレン・ハント)とビル(ビル・パクストン)の夫婦ゲンカが随所に盛り込まれている。

そのため当時、ドラマパートに関しては「緊張感をそいでいる」「ノリが軽すぎる」といった酷評も飛び交ったが、筆者は嫌いではない。むしろ主人公たちが犬も食わない口ゲンカを交わしながら竜巻に突っ込んでいく描写には妙な臨場感がみなぎっているし、夫婦の常軌を逸した〝竜巻狂〟ぶりや彼らを支える追跡チームのオタクっぽい風情が楽しい。無名時代のフィリップ・シーモア・ホフマンが、チームの一員をハイテンションで演じているのも要チェックだ。