舞台『ブロードキャスト』熱い青春を描き出す稽古場

AI要約

湊かなえの学園青春小説『ブロードキャスト』が初めて舞台化され、2024年8月10日(土) ~8月25日(日) まで恵比寿・エコー劇場で上演される。

物語は中学時代に陸上部だった主人公・町田圭祐が放送部に入部し、新たな挑戦をする内容。

キャストや監督、周囲の人々が作品への熱意や苦労、準備状況などを通して、稽古場の様子も紹介。

青海学院高校が高校放送コンテストに向けて準備し、本番までの進行状況や圧倒的な熱気が伝わる。

部活動や大会に向けた学生たちの思いや、準備にかける情熱が描かれている。

舞台では11人のキャストが小劇場で熱演し、物語を構築。青春の熱さや前向きなメッセージが込められている。

演出やキャストの取り組みによって、ストーリーの深みやリアリティが生み出されている。

舞台『ブロードキャスト』熱い青春を描き出す稽古場

数多くの傑作を生み出してきた湊かなえが初めて手がけた学園青春小説『ブロードキャスト』が初めて舞台化され、2024年8月10日(土) ~8月25日(日) まで恵比寿・エコー劇場で上演される。

本作は、中学で陸上に打ち込んでいた主人公・町田圭祐がなりゆきで放送部に入部し、新たな挑戦をする物語。2019年にはコミカライズもされた本作を、脚本・三浦 香&元吉庸泰、演出・元吉庸泰のタッグで描き出す。

主人公・町田圭祐役を演じるのは新 正俊。放送部に入部するきっかけを作る脚本家志望の同級生・宮本正也役を木村来士、同じく放送部に入部する久米咲楽を深尾あむが演じる。さらに、奥村等士、山本咲希、富樫萌々香、庄司ゆらの、新條月渚、星波、坂本けこ美、稲垣成弥と、様々なジャンルで活躍する若手俳優が集結している。

本番まで約1週間、いよいよ大詰めに入るタイミングで稽古場の取材を行った。

取材時には、圭祐たちが所属する青海学院高校が高校放送コンテストに向けて本格的に動き出したところから本番までのシーンが進められていた。

新はアナウンスやラジオドラマに出会い、新たな世界に惹かれていく圭祐を瑞々しく表現。陸上への未練や共に陸上に打ち込んでいた良太(奥村等士)への思いもありつつ、放送部の活動に夢中になっていく姿をイキイキと描き出す。木村は脚本や物語について話すときのキラキラした瞳で、宮本が本当に情熱を持って取り組んでいることをしっかり見せていた。深尾は一見控えめな咲楽が持つ芯の強さを表情や声で伝える。1年生3人のチーム感を見せるための決めポーズはまだテンションが合わないこともあり、演じる本人たちや見守るキャスト・制作スタッフ陣から笑いが起きることも。初々しさのある3人が本番までにどこまでチームワークを作り上げるのか期待したい。

少し頼りないが優しい部長(山本咲希)、そんな部長を明るく支えるアツコ先輩(富樫萌々香)、スズカ先輩(新條月渚)、ジュリ先輩(坂本けこ美)などの3年生メンバー、美しい声を持つミドリ先輩(星波)、制作物に対するこだわりと情熱が人一倍な白井先輩(庄司ゆらの)など、2年生・3年生の先輩たちも個性豊かで魅力的だ。各部員のスタンスの違いからくる衝突、目標に向かっていく勢いや熱量など、学生時代に部活に打ち込んだことがある方、チームで何かに取り組んだことがある方は共感しながら見ることができるだろう。

放送部のミーティングの様子を一度通した後、演出の元吉からこのシーンの重要性や背景について説明が入る。

青海学院高校は進学校で、高校放送コンテストの準備とテスト期間が被っていること。3年生は受験に向けて動き出している中での活動だということ。台本にはラジオドラマを制作すると宣言した時点で1カ月しか時間がないことがさらりと書かれているが、それがいかに大変な決断であるかを意識してほしいという言葉を頷きながら聞くキャスト陣の表情は真剣そのもの。

また、高校放送コンテストは「アナウンス」「朗読」「ラジオドキュメント」「テレビドキュメント」「ラジオドラマ」「テレビドラマ」の部門があり、ドキュメントやドラマは当日にその場で発表することはないという。大きな勝負であると同時に他校の作品を見るチャンスであり、お祭りのような雰囲気もあるという話もあり、知らないと想像しにくい放送部の活動や大会についての理解を全員が深めていく。

その上で改めて通しを行うと、キャスト陣の芝居にグッと深みが増した。1年生、2年生、3年生、それぞれの立場や大会に対する思いがこもったセリフや表情によって掛け合いの熱量もアップし、短いながら印象的なシーンに変化していく。

さらに、キャスト陣はメインキャラクターに加えて他校の生徒や保護者・教師など多くのキャラクターを演じ分け、SEも担当する。

高校放送コンテストのシーンでは、様々な高校のドラマ作品、アナウンスや朗読を全員で手分けして表現。ドラマ作品の多彩さ、アナウンスや朗読の緊張感、それを見る圭祐たちのワクワクが伝わってきて、見ているこちらもワクワクするシーンだ。

声で勝負する「放送部」の話だが、ステージのあちこちで小道具や声を使って多彩な音を出す様子も全て見ることができる、舞台ならではの作り方も面白い。野球のバットやトイピアノ、タイマー、ホース、お茶碗など、決して大掛かりではない小道具で、高校生たちが工夫して作り上げる作品にリアリティを持たせている。

ボールを打った音を聞かせるためにバットを叩くアイテムをいろいろ試したり、ユーモアのあるシーンをともに作る稲垣と新がお茶目な試行錯誤をしている様子に笑いが起きたり。和気あいあいと作っていく様子に、本当の部活動の練習を見ているような気分になった。

また、今回の公演が行われるのは小劇場である恵比寿・エコー劇場。決して広くはないステージで11人のキャストが動き回り、場面が次々に変わっていくため、動線や見え方も丁寧に確認していく。最初はバタバタしていた場面や、シーンの変化がわかりづらい部分もあったが、通しを繰り返すたびにキャスト陣のチームワークが磨かれ、洗練されていくのが印象的。ブラッシュアップを重ね、照明や衣装が加わって、本番ではどんな世界を見ることができるのか楽しみになる稽古場だった。

どの席からでも役者の表情や息遣いが伝わるであろう空間で、熱量たっぷりに繰り広げられる物語。青春の熱さだけでなくほろ苦さもありつつ、前向きなメッセージを受け取ることができる本作を、ぜひ劇場で見届けてほしい。

取材・文:吉田沙奈 撮影:岡千里

<公演情報>

舞台『ブロードキャスト』

公演期間:2024年8月10日(土)~25日(日)

会場:恵比寿・エコー劇場