「笑うマトリョーシカ」全て演技という演技の妙味 イマドキTV+

AI要約

俳優は役を生きなければならないという言葉があるが、演技法にはさまざまな考え方がある。一般的には自然な演技が良いとされるが、演技っぽい演技も面白いことがある。

ドラマ「笑うマトリョーシカ」では、櫻井翔さんが演じる政治家のキャラクターが有能な秘書の作戦に基づいて演技をしているが、その緻密な表現が物語を面白くしている。

物語は、取材するうちに政治家の中身に疑いを持つ記者の視点で進行し、さまざまな謎が絡み合う展開を見せる。

「笑うマトリョーシカ」全て演技という演技の妙味 イマドキTV+

「俳優は役を生きなければならない」はスタニスラフスキーさんの言葉だっけか。古今東西、演技法については、いろんな人がいろんなことを言っている。まぁ大体「自然に見える」「お芝居っぽくない」のが良い演技、良い役者といわれ、普段は私もそう感じている。

だけど、いかにも演技っぽい演技が抜群に面白いこともある。例えば「笑うマトリョーシカ」(TBS系、金曜夜)だ。

櫻井翔さんが、総理への階段を駆け上がるカリスマ政治家・清家を演じている。周囲を魅了するキャラクターなのだが、実は有能な秘書が書いたスピーチ原稿や想定問答を正確に暗記し、身ぶり手ぶり、抑揚まで緻密に表現できる才能の持ち主。つまり、まんま俳優なのだ。

自然な言動のようだけど全ては計算ずく。極薄の仮面をまとった所作を、櫻井さんが絶妙に表現。時折見せる無表情な瞳と空虚な笑顔が、めちゃくちゃ怖い。

そんな清家を取材するうちに「中身が空っぽの操り人形なのでは」と疑い始めた東都新聞文芸部の道上記者(水川あさみさん)の視点で物語は進行する。

同級生で秘書の鈴木(玉山鉄二さん)が人形使いなのかと思ったら、さらに黒幕候補が。清家を操っている人物は、一体誰なのか―。

道上の父親がいきなり死ぬとか、不審な事故死が連続していて、謎解き要素もあるけれど、ややこしすぎてギブアップしそう。ただ櫻井さんの演技が見逃せない。

見せている顔の内側に別の顔がいくつも潜んでいる。マトリョーシカは、そういうメタファー(隠喩)なのだろう。戸惑うのは議員事務所に堂々とマトリョーシカが飾られていること。清家がねっとりと人形を眺めていたりするシーンもある。ということは、本人も虚無性や多重性を自覚しているのだろうか。

こんな政治家がいたら嫌だなぁと思いつつ、リアルに櫻井さんが立候補したら通るかもなぁ、なんて妄想も広がって、いろいろ味わい深い。(ライター 篠原知存)