ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド【2024年夏号】

AI要約

ブロードウェイ2023-24シーズンの終了とトニー賞授賞式を振り返り、今年の注目作品を紹介。

トニー賞に輝いた『メリリー・ウィー・ロール・アロング』や新作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『酒とバラの日々』のミニレポートを提供。

木場麻子さんが独自の観点でブロードウェイの見どころや作品を紹介する、非公式ミュージカルガイド。

ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド【2024年夏号】

「ミュージカルの本場、ニューヨーク・ブロードウェイでは今何が上演されているの?」そんな質問に答えるべく、ブロードウェイ鑑賞歴30年、趣味は日本版の“妄想キャスティング”というミュージカル文筆家・町田麻子さんが、現地で観劇した公演のレポートと共に、最新のブロードウェイ情報をお届けする季刊連載。イレギュラー展開もあり、ちょっとゆるめの“非公式”ブロードウェイ・ミュージカル・ガイドです。(「ぴあ」アプリ・Webより転載)

6月16日(日本時間6月17日)に開催されたトニー賞授賞式をもって、ブロードウェイの2023-24シーズンが終了。今年のミュージカル部門は、ひとつの作品があらゆる賞を総取りするのではなく、何作品かで分け合う結果となった。そのため今のブロードウェイは、鑑賞者が物語を重視しているならコレ、音楽ならコレ、演出やビジュアルならコレ、キャストの名演を味わいたいならコレといった具合に、作品選びがしやすい状況にある。とはいえ、どれも重視する筆者としてはどの作品も気になっており、また続々と発表されている2024-25シーズンのラインナップの中にも気になる新作――日本でもお馴染みのアノ演出家が手掛けるアノ韓国作品など――が並んでいるため、結局のところやはり悩ましいのだが。というか、行ったらどれを観よう問題の前にまず、続く円安の中でどうしたら行けるだろう問題に悩んでいるのだが。

「コレ」「アノ」が何を指すかは後半のリストパートをご覧いただくとして、筆者が観てきた作品のミニレポートをお届けする前半では、そんなトニー賞に絡んだ3作をピックアップ。今年のブロードウェイ行脚はまだ新作が出揃う前の1月となったため、観た10作のうち半数はトニー賞にかすりもしなかったのだが、残り5作はノミネートを受け、そのうち『メリリー・ウィー・ロール・アロング』はリバイバル作品賞ほか4冠を達成している。

■キャストがとにかく凄かった『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(クローズ済)

2012年にロンドンで生まれ、2021年には日本でも上演されたマリア・フリードマン演出版だが、ブロードウェイ版の見どころは何と言ってもキャスト陣。若き日に同じ夢を抱いた男女3人がやがて袂を分かっていく様を、中年になったシーンから始まる“逆再生”で描く作品ゆえ、過去に観たバージョンでは寂しい読後感が残る印象があったのだが、ジョナサン・グロフ、ダニエル・ラドクリフ、リンゼイ・メンデスがそれを払拭。シーンが進むごとに本当に若返っていくようなエネルギッシュな演技で、最後にはグロフが希望に満ち満ちた表情を見せつけて終わるため、この3人ならば最初に描かれた中年シーンのあと、必ず仲直りして素晴らしい未来に向かうに違いないと思わされるのだ。ソンドハイムにもラドクリフにも特に思い入れがない身には高すぎるチケットだったが(直前割引でも4万円弱)、トニー賞に輝いたグロフとラドクリフの名演が観られたのでまあ、元は取れたと思おう。

■盛り上がるが惜しい『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

ほかの新作を何も観ぬうちから、これはドク役のロジャー・バートと装置がノミネートされて終わりだな、と思ったらその通りになった。脚本と音楽がどうにも弱く、せめて主人公マーティがもうちょっとドラマチックに成長してくれたなら(なぜかマーティの父の成長はドラマチックに描かれる)、せめて1曲でも心に迫るかすぐ覚えられるかする新曲があったなら、と思わずにはいられない。とはいえ装置と音響とイリュージョンで大いに盛り上がりはするので、原作映画きっかけで初めて劇場に足を運ぶ層にとっては満足度が高そうだ。

■一歩間違えれば狐につままれる『酒とバラの日々』(クローズ済)

アルコールに溺れたまま立ち直らない夫婦の物語という、歌で綴られたところで狐につままれた気持ちにしかならなそうな題材(原作は同名の白黒映画)を、おしゃれな楽曲とシックな演出と大人の魅力あふれる俳優二人が芸術性の高いミュージカルに仕立てた作品。主演したブライアン・ダーシー・ジェームズとケリー・オハラ(『王様と私』)、及びアダム・ゲッテル(『ライト・イン・ザ・ピアッツァ』)による音楽がノミネートを受けた。夫役を山口祐一郎が演じたら素敵に違いない、との日本版妄想が膨らむが、よほど高い芸術性を備えた演出家が手掛けないときっと狐につままれてしまうので要注意。