外科医たちの悪夢…恐怖の合併症「僧帽弁置換術後左室破裂」~『ブラックペアン』監修ドクターが解説 vol.11~

AI要約

二宮和也主演の『ブラックペアン シーズン2』で、心臓外科医が恐ろしい合併症に直面する様子が描かれる。

スナイプによる僧帽弁置換術後左室破裂が生じ、医師の細かなミスが命に関わる重大な結果を招く。

心臓手術の作業工程は膨大で、一つのミスが大きな影響を及ぼすリスクがあることが示唆される。

外科医たちの悪夢…恐怖の合併症「僧帽弁置換術後左室破裂」~『ブラックペアン』監修ドクターが解説 vol.11~

二宮和也主演で6年ぶりに日曜劇場に帰還する『ブラックペアン シーズン2』。シーズン1に引き続き、医学監修を務めるのは山岸俊介氏だ。前作で好評を博したのが、ドラマにまつわる様々な疑問に答える人気コーナー「片っ端から、教えてやるよ。」。シーズン2の放送を記念し、山岸氏の解説を改めてお伝えしていきたい。今回はシーズン1で放送された2話の医学的解説についてお届けする。

※登場人物の表記やストーリーの概略、医療背景についてはシーズン1当時のものです。

2話の後半では我々心臓外科医が将来経験するであろう恐ろしい合併症が出てきました。

スナイプによる僧帽弁置換術後左室破裂です。

■僧帽弁置換術後左室破裂

2話後半の山場です。スナイプ(経心尖カテーテル僧帽弁置換術:詳細説明はvol.8をご参照ください)による小山さんの手術が始まりました。僧帽弁手術が誰にでもできるというコンセプトで高階先生が推しているスナイプを関川先生が使用します。

関川先生は左利きで右手で人工弁をリリース(留置する:引き金を引く)しなければならないところを、左手に持ち替えて引き金を引いてしまいます。「人工弁を留置する際にとっさにスナイプを利き手に持ち替えたことが災いしたか」「初めて行うスナイプ手術だ。かすかな恐怖が器械の操作を狂わせた」。

ほんの些細なミスが命にかかわるミスにつながるというのが心臓の手術です。一つの心臓手術を完遂するのに、その作業工程は細かく分けると数百、千近くに及ぶのですが、その一手一手を正確に、確実に丁寧に積み上げていかなくてはいけません。

数百に及ぶ作業工程を数十にもみたない作業工程にまとめることで、誰にもできる僧帽弁手術を可能にしたスナイプは、その一手一手の重みが非常に重く、一手のミスが取り返しのつかない大惨事につながります。

通常であれば、左房と左室の間に僧帽弁という扉(弁)があるのですが、その弁の枠組み(弁輪)に人工弁をフィット(圧着)させないといけないのですが、斜めに弁を入れたことによりフィット(圧着)せずに、左室側に弁がずれてしまい、左室に落っこちてしまいました(脱落:マイグレーション)。