ナタリードラマ倶楽部 「虎に翼」女子部の“魔女5”に思いを馳せる

AI要約

連続テレビ小説「虎に翼」の女子部キャラクター4人の戦いを振り返る。各キャラクターの背景や展開を紹介。

寅子とよねの友情、香淑の朝鮮からの留学生活、涼子の家庭事情、梅子の離婚と親権争いの要約。

時代背景や法律の影響、そして高いジェンダーギャップ指数に対する希望を込めた4人の再集結への期待。

ナタリードラマ倶楽部 「虎に翼」女子部の“魔女5”に思いを馳せる

放送・配信中のドラマについて取り上げる連載「ナタリードラマ倶楽部」。Vol. 7では、連続テレビ小説「虎に翼」で伊藤沙莉演じる主人公・猪爪(佐田)寅子とともに明律大学女子部で法律を学んだ4人のキャラクターに焦点を当てる。

第6週、弁護士になるための高等試験を前に、さまざまな事情でバラバラになってしまった女子部の面々。寅子は、志半ばであきらめざるをえなかった彼女たちの思いを背負い、法律家として邁進を続けている。ドラマウォッチャー・綿貫大介が語るのは、「虎に翼」と「美少女戦士セーラームーン」に共通する信念。放送が折り返し地点に差し掛かった今、女子部の4人それぞれの“戦い”を振り返り、再集結の可能性を模索する。

文 / 綿貫大介

NHK プラスクロス SHIBUYAの「虎に翼」展を観に行ったときのこと。出演者が実際に撮影で着用した劇中衣装を展示したコーナーに釘付けになった。そこには猪爪寅子(伊藤沙莉)をセンターに、山田よね(土居志央梨)、桜川涼子(桜井ユキ)、大庭梅子(平岩紙)、崔香淑(ハ・ヨンス)の5名の衣装がトルソーに着せられ、横並びに飾られていた。その神々しさたるや!! これはもう、「美少女戦士セーラームーン」じゃん!

女子部法科出身のメンバーたち(通称「魔女5」)が放つパワー、横並びの際に発揮するまばゆいばかりの輝きが、セーラー戦士にだぶって見えた。だってこの5人は、かつての戦隊モノのピンクのような紅一点扱いの存在でもなく、後方支援要員でもなく、最前線の実働部隊として地獄での戦いを挑んだ女性5人なのだから。

そもそも「美少女戦士セーラームーン」は地球を救うために少女たちが悪と戦う話だと思いがちだけど、よくよく見るとそうではない。相反する価値観の持ち主である敵キャラを改心させていく物語になっている(思い出して、あやかしの四姉妹のこと!)。「虎に翼」はフェミニズムドラマとして語られるけど、悪=男たちなのではなく、価値観であり偏見でありそれを温存させている社会。自分の信念を貫くことで世界をよくしようとする行動指針も両作品に共通する信条だと思う。

なんだかもう勝手にいろんな共通点を見出してしまう(そう思うと、主人公が“うさぎ”というかわいい動物ではなく、“寅”子というところもめちゃいい)。だから「虎に翼」で高等試験に際して、女子部の仲間がそれぞれの事情で一人ずつ去っていくさまが描かれたときは、無印の45話「セーラー戦士死す!悲壮なる最終戦」回を思い出して泣けた。愛着のあるキャラクター達が次々と時代の荒波に飲み込まれていく非情さ。海で楽しい思い出を作った後はつらいことが待っていると朝ドラ「ひよっこ」で学んでいたはずなのに……!

それぞれが抱えるバックボーンは違いながらも連帯していた、大好きな女子部の面々。今回は寅子とともに学んだ4人のそれぞれの戦いに思いを馳せながら、今後の可能性を模索したいと思います!

まずは寅子と犬猿の仲のようで実は腹心の友、よね。生死不明なキャラクターが多い中、第51話で4人のうち最初に生存確認できたときのうれしさたるや! それなりに裕福な家庭に生まれた寅子とは全く違う境遇で、女子部に入るまでのおしん並みの苦労は語るに忍びない。幼少期に売り飛ばされそうになった際は性的モノ化されることを忌み嫌い「女をやめる」と髪を切り、試験の面接でも女性蔑視に抗い信念を貫く姿には思わずぐっときてしまった。どうかありのままのよねさんのまま弁護士になれますようにと強く思った。それから轟太一(戸塚純貴)とのタッグなんて最高すぎる。この弁護士事務所に舞い込む案件だけでスピンオフ希望! あとは寅子との雪解けを切に願うばかり。すべてはボタンの掛け違いだから。

※編集部注:よねは戦後、本科法学部の同級生・轟とともに法律事務所を立ち上げる。また、戦時中に一度弁護士を辞めた寅子とは喧嘩別れしており、戦後に再会してからも関係は修復されていない。

次は朝鮮半島からの留学生・香淑。朝鮮は明治43年の韓国併合によって大日本帝国領となっていたから、内地に進学したという見方でもよさそう。当時の日本同様に、朝鮮半島の女子が勉学の道に進むことは容易いことではなかったと思う。戦時下での治安維持法、特高の描写はおそろしかったから、志半ばでの帰国は残念ながらも正直ちょっとほっとした。万が一逮捕された場合、命の保証すらなかったと思うから。海のシーン、涼子が「お国のお言葉での、あなたのお名前は?」と尋ねたことで本来の名前「チェ・ヒャンスク」を取り戻した展開は秀逸すぎた(人は生きる上でいろんなものが奪われているんだよね……)。そんなヒャンちゃんの再登場は嬉しい反面、複雑な事情も。ヒャンちゃんは社会の偏見により出自を隠し通そうと、チェ・ヒャンスクでも崔香淑でもなく、日本式の氏と名である汐見香子として生きていたから。これからは“在日”としての苦労を背負うことになるのだろうか。お願い寅子、力になって!

男爵令嬢・涼子は家を守るために結婚の道を選んだ。華族は法令によって家督を継ぐ男子を立てた場合のみ襲爵が許されていたため、女の身では婿を取る以外に方法がなかった。これまた時代の犠牲者……本当にメンバー構成が秀逸すぎるよ……。そして出ました、みんな大好き憲法第14条! 「すべて国民は、法の下に平等」。第2項には「華族その他の貴族の制度は、これを認めない」と定めてあります。戦後は華族世襲財産法も廃止されて路頭に迷う華族も多かったと聞く。きっと涼子も大変なことになっているはず。でも男爵家の呪縛から解き放たれた涼子は、水を得た魚のように自由に生きていくのではないだろうか。なんかもう、これからはバリバリ働いて世界中を飛び回りそう。その姿を見せてくれ!

そして唯一の既婚者だった梅子。帝大に通う長男は祖母と父の思想に染まり、優秀ながら母である梅子を見下す傲慢な人間になってしまったため、次男と三男だけは真っ当な人間に育ってほしいと、夫と離婚して親権を獲得すべく法律を学んでいた(当時の家制度のもとでは、男女が対等に協議すること自体がほぼ不可能……)。離婚を突きつけられたあと、三男を連れて家を飛び出す展開、要は“連れ去り”の状態だから心配しかなかった。この逃避行ドラマ、気になりすぎる! 戦後は家制度は廃止。離婚後は父母いずれかが親権を持つ仕組みになったけど、梅子の場合は……? 共同親権可決に揺れた令和。梅子が親権問題に切り込む後日譚を聞かせてくれ!

女子部のメンバーはそれぞれ、当時の慣習や法律によってさまざまな足かせをかけながらももがいていた。それが新憲法・民法のもとでどう変わったのか。そこまでしっかり描くためにも、絶対に全員が再登場しなければいけないんです! 2024年でも日本のジェンダーギャップ指数は118位。差別や偏見もバックラッシュもあって、正直、「時代、本当に変わってる?」とは思う。でも、5人が幸せに笑っている姿を眺めることで、先人たちが一歩ずつ変えてきた歴史を讃えたいし、これからの変化を信じたい。はやく5人が揃ってまた横並びする様が見たいよ!

■ 綿貫大介(ワタヌキダイスケ)プロフィール

エンタメを中心としたカルチャー分野で活動する編集者・ライター・テレビっ子。雑誌やWEBでの寄稿のほか、コンテンツ制作や企業ブランディングも手がける。

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