「彼らはうそのない澄んだ瞳をしていました」 ドラマ主演で話題の和合由依が見た「かくしごと」

AI要約

絵本作家の千紗子(杏)、認知症を発症した千紗子の父・孝蔵(奥田瑛二)、記憶喪失の少年・拓未(中須翔真)。3人はうそのない澄んだ瞳をしていました。

認知症の父と暮らすため渋々田舎に帰郷することになった千紗子は、ある日、事故で記憶喪失になってしまった少年を助けます。少年の体にある虐待の傷痕を見つけた千紗子は、彼に「あなたは、私の子供なの」とうそをつき、父親と少年と3人での生活を始めていくのです。

今作を見終えた私の頭の中に一番に思い浮かぶのは主人公3人の「瞳」です。

「彼らはうそのない澄んだ瞳をしていました」 ドラマ主演で話題の和合由依が見た「かくしごと」

絵本作家の千紗子(杏)、認知症を発症した千紗子の父・孝蔵(奥田瑛二)、記憶喪失の少年・拓未(中須翔真)。3人はうそのない澄んだ瞳をしていました。

認知症の父と暮らすため渋々田舎に帰郷することになった千紗子は、ある日、事故で記憶喪失になってしまった少年を助けます。少年の体にある虐待の傷痕を見つけた千紗子は、彼に「あなたは、私の子供なの」とうそをつき、父親と少年と3人での生活を始めていくのです。

今作を見終えた私の頭の中に一番に思い浮かぶのは主人公3人の「瞳」です。少年にうそをついたまま生活を共にすると決心した千紗子の瞳と、大人中心の世界で自分を見失うことなく真っすぐに生きる少年の瞳と、認知症に苦しみ自分と戦い続ける孝蔵の瞳。

私が好きな言葉の一つに「人の数だけ世界がある」があります。年齢も違えば生まれた環境も違う主人公の3人は、見るものも、刺激を受けるものも、感じるものもそれぞれ違います。各人それぞれの世界で生きています。けれど、そんな〝違った世界〟で生きる彼らに共通するものがありました。それは〝澄んだ瞳〟をしていたということです。

そんな3人の中でも特に、私の中で印象に残っているのが千紗子の瞳です。千紗子は少年に〝自分が本当の母親ではない〟という秘密を隠しながら生きていきます。「少年を自分の子供にしたい」という欲望から生まれたうそなのかもしれませんが、それは犯罪になりかねないもの。うそというのは二つの顔を持ち、どちらにも変身できるという複雑な力を持っています。何かを隠して生きるのは苦しいこと。ただただ自分のいちずな気持ちから生まれたうそは自分の自由を奪います。

〝自分が母親であるといううそ〟を信じて生きてくれるのだろうか、〝もし記憶を取り戻したらどうしよう〟。千紗子はきっとこんな不安を抱えながら少年と一緒に暮らしていたのだと思います。うそは罪でもある。けれど、そんなうそから生まれた彼女の感情はとても素直でした。ただただ少年を守りたい、一緒に暮らしたい、という思いから生まれたこのうそは彼女の一方的な〝愛情〟なのだと、彼女の行動を見て思いました。罪を犯してはいるものの、少年に対する彼女の瞳は真っすぐで、うそがありませんでした。

そして罪悪感にさいなまれた千紗子が、自分が出したこの不幸な環境にもがく姿からは人間の本質がにじみ出ているようでした。私は千紗子を見て「人間は感情の生き物」という言葉を思い出しました。感情というのは時々邪魔になる。感情が動くことで今ある状況を冷静に見ることができなくなってしまうのだと思います。「うれしい」「楽しい」「幸せ」「感動」。「悲しい」「寂しい」「苦しい」「孤独」。私たちが持つ感情はプラスの方向に向かってくれるとは限りません。時に感じたくもない感情が芽生え、私たちを苦しめることがあります。千紗子はそんな〝 感情〟に敏感で、行動にわかりやすく表れていました。