【社説】政治家への暴力 民主主義への挑戦許すな

AI要約

海外で広がるポピュリズムによる暴力行為について警鐘を鳴らす記事。スロバキアの首相が銃撃され、欧州各地で政治家への襲撃事件が相次いでいる。ポピュリスト政党の台頭や社会不安が暴力事件の背景にあることを指摘。

欧州議会選前に政治対立が過熱し、既成政党が苦戦する中、右派やポピュリスト勢力の伸長が懸念されている。市民の不満が排他的な風潮やポピュリスト政党の台頭を助長する可能性がある。

米国でもトランプ支持派とバイデン支持派の対立が深まる中、暴力で主張を貫く行為が民主主義を脅かしていると指摘。政治指導者は国民の対立をあおる言動を慎むべきだ。

【社説】政治家への暴力 民主主義への挑戦許すな

 政治を変えるために大衆の感情を揺さぶり、扇動するポピュリズムが海外で広がっている。こうした言動に刺激され、自分の意見と異なる人に暴力を加えることは絶対に許されない。

 東欧スロバキアのフィツォ首相が銃撃された。一命は取り留めたが、一時は極めて深刻な状況だった。

 市民の前で凶行を起こした容疑者は71歳の男で、政府は「明確な政治的動機による犯行」と断定した。詳細な動機は不明だが、男は反政府運動に参加するなど政権に強い不満を抱いていたという。複数犯の可能性もある。

 フィツォ氏は、ポピュリスト政党といわれる左派スメルを率いて昨年9月の総選挙で勝利した。3度目の首相に返り咲くと、ウクライナへの軍事支援停止を表明し、反汚職に取り組む特別検察の廃止やメディア統制を進めた。

 強権的な政治姿勢に反発するデモが頻発し、国民の分断が深まっている。

 各国の指導者が事件を非難する声を上げたのはもっともだ。類似の事件を防ぐためにも、当局には徹底した捜査を求めたい。

 5年に1度の欧州議会選を来月に控えた欧州で、政治家を標的にした暴行事件が続いている。

 ドイツでは、中道左派の社会民主党(SPD)に所属する前ベルリン市長が男に殴打される事件が起きた。SPDの欧州議会議員は極右思想に傾倒する集団に襲撃された。他政党も被害に遭っており、事態は深刻だ。

 事件の背景とみられるのは家計を圧迫するインフレや、中東情勢の悪化などで高まる社会不安である。それが欧州各国の既成政党への批判につながっている。

 憂慮すべきは市民の不満の矛先が移民やイスラム教徒に向けられ、排他的な風潮が強まっていることだ。

 これに乗じてポピュリスト政党が勢力を拡大している。インターネットの過激な投稿で感情を刺激し、昨年来、フィンランドやオランダ、ドイツなどの選挙で極右政党の伸長が目立つ。

 欧州議会選でも既成政党が苦戦し、右派やポピュリスト勢力が議席を増やすとの見方が強まっている。政治対立が過熱し、暴力事件がさらに増えないか気がかりだ。

 米国では11月の大統領選を前に、トランプ前大統領支持派とバイデン大統領支持派との断絶が深まる。前回の大統領選の後、トランプ氏の敗北を認めない大勢の支持者が連邦議会議事堂を襲撃した事件を忘れてはなるまい。

 意見の違いを認めず、暴力で主張を貫く行為は民主主義の否定である。無用な火種を生まないように、世界の政治指導者は国民の対立をあおる言動を慎むべきだ。

 日本では選挙中に安倍晋三元首相や岸田文雄首相が狙われた。ポピュリズムの広がりも対岸の火事ではない。