薄れる「検察の理念」、内部から「組織風土の問題」…全事件の取り調べ可視化を求める声も

AI要約

法務省庁舎での検察長官会同が異様な緊張感の中行われ、捜査の適正確保に関する議論が繰り広げられた。

検察の独自捜査での取り調べ問題が相次いでおり、自白誘導疑惑や組織の風土について議論が行われた。

検察の理念や倫理規定が改ざん事件を受けて導入されたが、最近ではその存在感が薄れつつあると指摘されており、適切な取り調べの方法についての議論が求められている。

 今年2月下旬、法務省庁舎の地下にある大会議室。検事総長の甲斐行夫(64)以下、全国8高検の検事長、50地検の検事正らが組織運営について話し合う「検察長官会同」は、異様な緊張感に包まれていた。

 その2か月前。最高検監察指導部は、2019年参院選の大規模買収事件を巡り、東京地検特捜部検事の取り調べを「不適正」と認定する調査結果を公表した。検事は、元法相・河井克行(61)(公職選挙法違反で有罪確定)から買収資金を受け取った容疑で任意捜査した元広島市議・木戸経康(68)に不起訴を示唆し、自白調書に署名させていた。

 この「供述誘導疑惑」に前後し、検察の独自捜査事件では取り調べの問題が相次いで噴出した。甲斐が会同で「捜査・公判活動の適正確保に意を配ってほしい」と訓示した後、出席者から「自省」の発言が出た。関係者によると、ある検事正は「無理に自白を得ても良いことはない」と言及。別の検事正は「不適正な取り調べが起きるのは上司の責任が重い」と組織論に踏み込んだ。幹部の一人は「『組織風土の問題』ととらえる発言にはインパクトがあった」と語った。

 甲斐は「検察の理念」に立ち返るよう強調した。それは、09年に大阪地検特捜部が手がけた郵便不正事件で、主任検事が証拠品を改ざんするという不祥事の反省を踏まえ、11年に制定された初めての倫理規定だ。起訴の可否を決められるなど絶大な権限を握る検察官の心構えとして、<自己の名誉や評価を目的に行動することを潔しとしない><独善に陥らない>と明記した理念は、改ざん事件からの再生を図る検察改革の「魂」となってきた。

 だが、最近では「存在感」が薄れているとの見方もある。当時、検察改革を提言した「検察の在り方検討会議」委員を務めた青山学院大名誉教授(刑事訴訟法)の後藤昭(73)は、「筋書きに沿った供述をさせようとする傾向が続いている」とし、「心構えにとどまらず、禁止事項も含めた適切な取り調べの方法を示す指針を作る必要がある」と指摘する。