【社説】南西シフト強化 沖縄の不安に目を向けて

AI要約

政府は中国の海洋進出や台湾有事を念頭に、南西諸島の防衛力を強化する「南西シフト」を進めている。

沖縄では南西シフトに賛否両論があり、本土との意識差が深まっている。

安全保障に関する世論調査では、専守防衛を重視する人が多く、非軍事的手段での対応を支持する声も多い。

【社説】南西シフト強化 沖縄の不安に目を向けて

 政府は中国の海洋進出や台湾有事を念頭に、九州から沖縄にかけての南西諸島の防衛力を強化する「南西シフト」を進めている。

 特に沖縄には陸上自衛隊の駐屯地が次々と開設され、ミサイル部隊も新たに配置された。現地では戦争に巻き込まれないかと不安が広がる。本土との意識差は大きい。

 本社加盟の日本世論調査会がこの夏、平和に関する全国郵送世論調査をしたところ、南西シフトに賛成する回答が76%を占めた。

 この結果に、沖縄からは失望の声が上がる。有事になれば沖縄が標的になる危険性が高まる。それが理解されていないか、やむを得ないと思われている可能性がある。落胆するのは理解できる。

 政府は自衛隊の空白地域だった南西諸島を重視し、2010年の防衛大綱で南西シフト強化の方針を打ち出した。

 これに沿って、16年に沖縄・与那国島、19年に沖縄・宮古島と鹿児島・奄美大島、23年に沖縄・石垣島に陸上自衛隊の駐屯地を開設した。

 地元は歓迎と反発が交錯する。多数の自衛隊員の移住で人口減に歯止めがかかり、経済効果も期待されている。

 一方で南西シフトは、本土防衛のため沖縄が「捨て石」にされた79年前の悲惨な記憶を呼び覚ます。再び戦場になるのでは、と県民が強く懸念する現実に目を向けたい。

 沖縄には国内の米軍専用施設の70%が集中し、日米安全保障体制で重い負担を強いられている。そこへさらなる軍事施設の増強である。「また沖縄を防波堤にするのか」と異論が出るのは当然だろう。

 台湾に近い以上、やむを得ないという見方もある。そうであっても、住民の理解や賛同が不十分なまま、なし崩し的に軍事拠点化することがあってはならない。

 南西シフトは私たち九州の問題でもある。島しょ部に限らず弾薬庫の新設、米軍の訓練移転、輸送機オスプレイの配備などが着々と進む。政府は有事に沖縄の避難住民を九州で受け入れる考えだ。

 安全保障を「沖縄の問題」に矮小(わいしょう)化してはならない。基地負担と有事のリスクを沖縄が過度に背負うのは、あまりにも理不尽である。安全保障は国民全体で受け止め、考えるべきテーマだ。

 今回の世論調査では、自衛隊について「『専守防衛』を厳守するべきだ」と回答した人が68%に上った。

 台湾有事に日本が取るべき行動は「外交や経済制裁など非軍事の手段で対応する」が最も多く、半数を超えた。武力行使を選択した人は1割に満たない。

 安全保障環境の悪化を強調し、防衛費増額や日米同盟強化にまい進する政府に対し、戦争を忌避する国民感情を反映していると言えよう。

 政府は国民世論を尊重し、軍事に偏らず、外交や経済を含む多面的な安全保障を構築すべきだ。