「世界中で貧しい人が増えている」は完全な嘘だった…『FACTFULNESS』でバレた人間がチンパンジーに劣る証拠

AI要約

本書は世界の状況を正しく理解するために、人々が持つドラマティックな見方について考察している。

著者は、人々が貧困や富の分断などの問題を誤解していることを示し、自らの本能が情報の誤解に繋がることを指摘している。

この本を通じて、読者は世界の実情を客観的に見つめることを促される。

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FACTFULNESS

ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド 著

上杉周作、関美和 訳

日経BP

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■あなたはチンパンジーに勝てるか

 突然だが、ここでクイズ! あなたがどれほど世界のことを知っているか、チェックすることから本書は始まる。ここでは掲載されている13問のうちのひとつを紹介する。3択問題だ。正解はどれだろうか(答えは記事最終ページ)。

 問題 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?

A 約2倍になった

B あまり変わっていない

C 半分になった

 こうしたクイズを、著者らは日本や欧米諸国を中心に14カ国・1万2000人にオンラインで実施した。全問正解者はなんとゼロ、12問中11問正解したのはたったの1人。ある1問だけは86%の人が正解したが、ほか12問の平均正解数は2問だった。ひどい結果である。

 高学歴の人や世界情勢を注視している人の正解率は高いはずだと著者らは考えたが、実はそうではなかった。大学教授、著名な科学者、投資銀行のエリート、多国籍企業の役員、ジャーナリスト、政界トップといったグループにもクイズを行ったが、彼らの平均スコアも同じぐらい惨憺たるものだった。

 仮にこのクイズをチンパンジーに出したとしよう。チンパンジーは3つの選択肢からランダムに回答を選ぶはずだから、チンパンジーの正解率は33%だ。つまり、12問中約4問に正解する計算になる。そう、私たちはチンパンジーにすら勝てないのだ!(あなたがチンパンジー以下かどうかは、本書で答え合わせをして確認してほしい)

■人間の本能が勘違いを生んでいく

 スウェーデン出身、医師であり公衆衛生学の研究者である著者ハンス・ロスリングは、賢いはずの医学生たちが世界の現状を全く知らないこと、そして、その知識不足は学生だけでなく社会全体に蔓延していることに気がついた。人々の知識がアップデートされていないことが原因だと睨んだ著者は、その後長年にわたって、コカ・コーラ社からアメリカ国務省、ダボス会議(世界経済フォーラム)まで世界中で講演活動を行い、最新の世界像を見せて回った。そして、ある結論にたどり着いた――人々が世界を正しく認識できていないのは、知識のアップデート不足が原因ではない。本当の原因は、私たちが本能的に「ドラマチックすぎる世界の見方」をしてしまうことにある。

 あなたは、こう思っていないだろうか。

 「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう」

 これが、「ドラマチックすぎる世界の見方」だ。

 ドラマチックさを求めてしまう私たちの本能を、著者は10のカテゴリに分類し、それぞれを解説していく。

 このうち、著者が最初に挙げるのが分断本能だ。分断本能とは、物事や人々を知らず知らずのうちに2つのグループに分けてしまうこと、その2つのグループのあいだには決して埋まることのない溝があると思い込むことだ。「先進国」と「途上国」、「豊かな西洋諸国」と「貧しいその他の国々」、「わたしたち」と「あの人たち」……。世界は金持ちグループと貧乏グループに分断されていると多くの人は感じているが、これも分断本能のせいであり、実態に即さない。