都内に5千以上の「災害時協力井戸」 自治体によってばらつきも 防災の日に考える断水への備え

AI要約

今年1月の能登半島地震では、石川県内だけでも最大で約11万戸が断水し、復旧に数週間から数カ月単位の時間を要した。

災害時に重宝された井戸水は、飲料水や生活用水として活用され、民間の井戸を登録して災害時に地域住民に利用させる取り組みが行われている。

国も井戸水の重要性を認識し、自治体向けのガイドライン策定を目指している。

都内に5千以上の「災害時協力井戸」 自治体によってばらつきも 防災の日に考える断水への備え

9月1日は防災の日。国や自治体では、災害への備えを呼びかけています。その中でも、今、特に重要視されているものの一つが生活用水の確保です。今年1月の能登半島地震では輪島市や七尾市などで長期間にわたって断水が続いたこともあり、井戸水の重要性が再認識されています。井戸を災害時に活用するための取り組みについて取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)

今年1月の能登半島地震では、石川県内だけでも最大で約11万戸が断水し、地域によっては復旧に数週間から数カ月単位の時間を要しました。

記者も地震発生から約1カ月後に輪島市や七尾市で取材にあたりましたが、依然として多くの家庭で断水が続いていました。

「飲料水がコンビニやスーパーに並ぶようになったが、水道が止まったままなので風呂や洗濯、トイレなどが使えない」といった被災者の声を当時は多く聞きました。

そんな中、被災地で重宝されていたのが、井戸水でした。

銭湯などの施設や一部の民家が、自宅に設置した井戸の水を近隣住民に無償で配布している事例をいくつか見聞きしました。

井戸水とプロパンガスを使って即席の「お風呂」を作って無料で開放していた例もありました。

実は、こうした民間の井戸を事前に自治体に登録してもらい、災害時には地域の住民に無料で開放する仕組みを設けている自治体もあります。

東京都によると、こうした井戸は「災害時協力井戸」などと呼ばれ、制度の有無や名称は各区市町村によって異なるものの、都内では風呂や洗濯などの生活用水に使える井戸が5521カ所、飲み水として使える井戸が245カ所登録されているそうです。

都の担当者は「首都直下地震が起きた場合、23区で約3割、多摩地域で約1割の世帯で断水が発生すると想定されています」と話します。

「復旧には2週間以上かかるケースも想定されるため、比較的地震に強いとされる井戸水の活用が重要になってきます」

また、大阪府では災害時協力井戸を地図に落とし込み、府のホームページ上で公開しています。

府の担当者によると、府内で登録されている井戸は今年3月末時点で1390カ所。いずれも飲料用ではなく、生活用水として使うためのものだそうです。

このうち、所有者から場所の公開に同意が得られた井戸の位置情報を、地図上で誰でも見られるようにしているそうです。

担当者は「まず自宅の近く、どのあたりに井戸があるかを把握し、普段から歩いて確認しておくことをおすすめします」と話します。

「その上で、水を入れるための容器や運ぶための台車などがあると、より良い備えになるはずです」

ただ、こうした取り組みの進み具合は、自治体によってばらつきがあるのも現状です。

能登半島地震の被害を受けた石川県内でも、金沢市では震災前からこうした制度が導入されていた一方、輪島市や七尾市には制度が無く、住民の自発的な行動に委ねられていました。

こうした制度を全国の自治体に広めるため、国も本格的に動き出しました。

国土交通省によると、自治体向けのガイドラインの策定を目指し、有識者会議が行われているそうです。

担当者は「能登半島地震をきっかけに、井戸水の活用が重要視されています。ガイドラインができれば、これまで制度化されていなかった自治体でも、災害時協力井戸の整備が進んでいくはずです」