学校要求で現金寄付はルール逸脱…PTAの予算運用 「善意でやっている人も多い」

AI要約

PTA予算の運用に関する問題点が明らかになり、異論が噴出している。

熊本市では学校側からの要求に応じてPTAが現金を寄付しており、公金外の現金が混ざるリスクが指摘されている。

地方財政法に抵触する可能性もあるPTAの現金寄付や、学校の経費を住民に転嫁する恐れが指摘され、不透明な予算運用が問題とされている。

教育の平等性を考え、公費で必要な経費を賄う必要性が指摘されつつも、PTAの善意や学校側の予算不足など、複雑な背景が浮き彫りになっている。

学校要求で現金寄付はルール逸脱…PTAの予算運用 「善意でやっている人も多い」

 PTA予算の使い方がおかしいのではないか-。西日本新聞「あなたの特命取材班」に届いた保護者の声とその取材内容をウェブサイトで公開したところ、予算の運用のあり方も含めて多数の意見が寄せられた。取材を進めると、ルールを逸脱して、学校側の求めに応じてPTAが現金を寄付している実態が熊本市であったことも判明。本来は学校側がまかなうべき予算の使途も散見される。学校での公金外現金はどう取り扱われるべきなのか。

 熊本市教育委員会によると、PTAから学校への現金寄付に関する指摘が外部からあり、今年2~3月に市内の小中学校計134校を対象に実態を調査した。

 その結果、2020~23年度に毎年99~112校で現金寄付があったことが分かった。全体の7割を超える規模で、毎年の総額は約1900万~2千万円。このうち、21~23年度に学校からPTAに寄付を要求・依頼したケースが7校であったという。市教委は「寄付は本来、PTAから自発的になされるもの。学校からの要求は適切ではない」と説明。寄付の使途については「確認していない」と述べるにとどめた。

 一方、市教委は以前から、学校からの要求の有無にかかわらず「現金の寄付は認めない」という立場だという。理由は「公金の現金と混ざるリスクを下げるため」。その周知が不十分だったとして、公金外現金のマニュアルを見直し、各校に周知する方針という。

 あな特取材班には、PTAが任意団体であるにもかかわらず「活動に参加するという誓約書にサインしないと入学できない学校がある」という声が東京都から届いた。事実上の「強制加入」に当たる上、寄付が行われていれば、自治体が住民から強制的に寄付を徴収することを禁じた地方財政法に抵触しかねない。

 東京都中央区教委に取材すると、区立小17校のうち、5校で校区外から児童を受け入れており、この制度を希望する家庭は「教育方針等確認書兼誓約書」への署名が条件となっているという。この文書の中に「PTA活動に参加」という文言があった。

 担当者は「PTA側からの要望に基づいてこの文言を入れている。該当部分を二重線で消して出す人もいるし、応募多数の場合の抽選では、それが不利になることもない」と意に介さない。ただ、情報提供者は「PTAは任意団体なのに、教育委員会がこのような文言を入れ込むこと自体がおかしいのではないか」と納得できずにいる。

 予算の使途についての情報提供も多かった。

 大阪府茨木市では、ある小学校のトイレ清掃に21~23年度の3年間で計150万円のPTA予算を支出していた。市教委は「校舎が古く悪臭がひどいという話があった」とする。福岡市の小学校では、保健室の簡易ベッドの購入代、英語講師料、プールの清掃代、運動会用テントのレンタル料に充てられていた。

 こうした現状について「隠れ教育費」の著書がある福嶋尚子・千葉工業大准教授(教育行政学)は「学校の足りない予算を恒常的にPTAが負担してきた可能性がある」と懸念を示す。

 PTA予算での物品購入は、学校の経費は設置者の負担と定めた学校教育法に違反する可能性があるほか、プールやトイレの清掃については、学校の維持や修繕の経費を住民に転嫁することを禁じた地方財政法施行令に違反する恐れがあるという。

 それでも各地であいまいな予算運用が続く背景には、「美談と無知がある」と指摘する。

 学校の建物や設備が老朽化しても、学校側の予算は限られる。そこで予算に余裕があるPTAが支出する。子どものために貢献できた保護者も、すぐに対応できた学校側も満足する。教育委員会は予算を増やす必要がない-。こんな実態が透けて見える。

 「法令を知らず、善意でやっている人も多い」と福嶋さん。疑問を呈する人が「悪者扱い」されるケースもあり、支出ストップが関係者の満足度を下げるため、異論は許されない雰囲気になってしまうという。

 福嶋さんは「考え方を整理するために、教育の平等性という法律の趣旨に立ち戻ってほしい。学校教育で必要な経費は公費で賄うことが重要」と強調する。自治体が教材を全額負担したり、共用の教材を増やしたりする取り組みも各地で出始めているという。 (編集委員・四宮淳平)