教員の5人に1人が過労死ライン超え――生成AIも活用した校務DX【1】

AI要約

教員の長時間労働問題は解消されておらず、働き過ぎが様々な悪影響をもたらしている。

長時間労働は教員の健康を損ない、教員不足や質の低下を引き起こす可能性がある。

文部科学省は校務のDXを推進し、デジタル化によって効率化やワークライフバランスの改善を図ることが重要だ。

教員の5人に1人が過労死ライン超え――生成AIも活用した校務DX【1】

 教員の長時間労働問題は、ニュースなどでたびたび取り上げられるが、この数年、大きな改善は見られない。国の「教員勤務実態調査(令和4年度)」*によると、「教諭」の「1日当たり在校等時間」と実質的に時間外勤務となる「持ち帰り時間」を合わせると、小学校の平日で11時間23分、中学校で11時間33分にも及ぶ。土日も、それぞれ1時間12分、3時間7分と長い。この状況は高等学校でもほとんど同じだ。2016年度の前回調査よりは改善したとはいえ、依然として高い水準にある。

*2024年4月に確定値発表。今後は5年おきに実施予定

 全日本教職員連盟が、主に小中学校の教員を対象として2023年に実施した調査では、時間外労働が1カ月換算で80時間以上になると推定される教員の割合は18.8%になる(図)。5人に1人が過労死ライン超で働く職場は、異常と言うほかない。

 教員が忙し過ぎると、本人にも子供たちにも良いことは一つもない。それどころか、忙しさが忙しさを生む悪循環に陥る。

 長時間労働は心身の健康を蝕み、休職者が増える。学校がブラック職場だとの認識が広がると、ワークライフバランスを重視する傾向にある若者は、教職を目指さなくなる。全国で教員の定数を満たせない事態が頻発しているだけでなく、採用倍率の低下が教員の質低下を招くという指摘もある。教員が足りず質も低くなれば、それを補おうとする管理職が多忙になり、教諭への指導・支援が不足しがちになるだろう。

 子供たちへの影響も懸念される。授業準備や教材研究の時間が不足すると、授業の質が下がる恐れがある。児童・生徒と接する時間が不足すれば目が行き届かなくなり、学級経営の困難という形で教員に跳ね返ってくることも考えられる。それらの問題が、ますます教員の仕事を増やしてしまう。

 文部科学省が教員の働き方改革に有効だと考えているのが校務のDXだ。2023年3月に「GIGAスクール構想の下での校務DXについて」という提言を発表した。この中で、校務DXについて10の課題を挙げている。これによると、そもそも紙の書類や電話・ファクスで仕事をしているのでは、DXどころかデジタル化さえできていないことになる。

 だが、GIGAスクール構想で1人1台の端末が行き渡り、クラウドサービスが導入された今は、一気にデジタル化を進めるチャンスだ。しかも、生成AI(人工知能)の登場により、以前は難しかった複雑な作業でも自動化が可能になった。校務の大幅な効率アップが期待できる。

 校務DXがもたらす効果は多岐にわたる。教員が本来の仕事である授業やその準備に使える時間を増やし、ワークライフバランスを改善できれば、前述のような悪循環を逆回転させることができるはずだ。

初出:2024年7月9日発行「日経パソコン 教育とICT No.29」