文学と焼酎、2つの「百年の孤独」 「ぜひ飲みながら読んで」蔵元が明かす命名秘話

AI要約

ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説「百年の孤独」の文庫化が静かなブームとなり、海外文学作品として異例の反響を呼んでいる。

黒木本店が創業100周年を記念して発売した麦焼酎「百年の孤独」は、大ヒット商品となり、40年以上のロングセラーとして知られている。

百年の孤独の命名やパッケージには、文学や音楽への情熱が込められており、黒木本店の会長のアイデアが集大成された銘酒である。

文学と焼酎、2つの「百年の孤独」 「ぜひ飲みながら読んで」蔵元が明かす命名秘話

 今年、初めて文庫化された『百年の孤独』が静かなブームとなっている。1967年に出版されたラテンアメリカ文学の巨匠ガブリエル・ガルシア=マルケスの手になる、一族の歴史を描いた長編小説だ。6月26日に発売されると品切れの書店が続出し、紀伊國屋書店では6/26~7/6の全店データで、文庫売り上げ第1位となった。海外文学作品では異例の反響だ。

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 だがお酒好きの方には、“もうひとつ”のほうがおなじみかもしれない。明治18年創業の老舗・黒木本店(宮崎県)が、1985年に発売した麦焼酎「百年の孤独」である。

 命名は偶然の一致なのだろうか――。黒木本店に取材を申し込むと、同社の会長直々にその事情を語ってくれた。

「百年の孤独は、1985年に黒木本店の創業100周年を記念し、私が企画した商品なんです」

 そう話してくれたのは、黒木本店の会長で現在は宮崎県児湯郡「高鍋町」の町長も務める黒木敏之氏(70)だ。

「当時、会社の経営状況は厳しく、このままでは4代続いた蔵元が私の代で潰えてしまうかも知れない、という考えが頭をよぎるほどでした。その時、起死回生を狙って考案したのが、『百年の孤独』なのです。当時はまだ樽で熟成させる焼酎は珍しかった。我ながらかなりチャレンジングな企画でした」(黒木氏)

 狙いは見事に的中。百年の孤独は大ヒットし、以来約40年のロングセラー商品に。今では黒木本店を代表する銘酒として認知されている。

「もし百年の孤独が生まれていなければ、今の黒木本店はなかったかも知れませんね」(同)

ところで、なぜ「百年の孤独」というネーミングに至ったのか――? 

「それは、私が寺山修司のファンだからです。ガルシア・マルケスが『百年の孤独』でノーベル文学賞を受賞したのが1982年でした。寺山修司は自身の監督作品として、1984年に『百年の孤独』を映画化し“さらば箱舟”として発表していますが、小説と同名のタイトルをつけることは許されなかった。そこで、私なりの寺山修司へのオマージュと、創業100周年、さらに“貯蔵酒”のテイストを感じさせる商品名として“百年の孤独”の商標登録を取得したのです」(黒木氏)

 もちろん、文学青年だった黒木氏も、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』を愛読していた。

「当時、私は30歳ぐらい。その頃、文学好きだと言うなら“寺山修司やガルシア・マルケスを語れて当たりまえ”という風潮がありました。私も若い時分、本気でシナリオライターになろうと思っていた時期があった。映画や音楽、そして文学には特別な思い入れがありますね」(同)

 芸術へのそんな思いは、「百年の孤独」のボトルにも。知る人ぞ知るこだわりだが、ボトルの側面にはジャズ・ミュージシャンのエリック・ドルフィーが残した名言が刻まれているのだ。

 When you hear music after it’s over, it’s gone in the air, you can never capture it again.(音楽は終わってしまえば消えてしまい、二度ととらえることはできない)

 当時では珍しかった樽での長期熟成。焼酎としては珍しい40度という度数。細部までこだわったパッケージ。そしてネーミング……。「百年の孤独」が銘酒と言われる所以は、黒木氏のアイデアの集大成にあるといえるかもしれない。