「娘との楽しかった日々を思い出してつらい」…女性4人死傷の小樽飲酒ひき逃げ10年、遺族の苦悩続く

AI要約

海水浴帰りの女性4人が死傷した北海道小樽市の飲酒ひき逃げ事件から10年が経過。

犠牲者の家族は事件現場で献花式を開催し、母親は仏壇の前で静かに手を合わせる。

事件で亡くなった里枝さんを失った母親が、事件後の苦悩と過ごした思い出について語る。

 海水浴帰りの女性4人が死傷した北海道小樽市の飲酒ひき逃げ事件は13日、発生から10年を迎えた。海水浴場「おたるドリームビーチ」近くの事件現場では、道警が犠牲者の冥福(めいふく)を祈る献花式を初めて開催。一方、まな娘の石崎里枝(りえ)さん(当時29歳)を失った日出子さん(74)は式に出席せず、仏壇の前で静かに手を合わせることを選んだ。(河野優梨花)

 「もう天国からいつ迎えが来てもいい」。今月9日、美唄市の自宅で取材に応じた日出子さんは、里枝さんとの思い出を振り返りながらポツリとつぶやいた。

 まじめで堅実な性格だったから、進学先も就職先も安心して本人の選択に任せた。家族思いでもあり、20歳で医療機関に勤め始めた後も都合をつけて家族旅行に付き合ってくれた。

 母娘2人で大雪山系黒岳に登ったこともある。山頂から眺めた一面の紅葉の美しさは、生涯忘れられない光景になった。

 事件前年の10月には、夫も交えて支笏湖の温泉へ。帰り際に「一人暮らしはさみしくないの」と声をかけた。「楽しいよ」と即答した笑顔に芯の強さを見た思いがした。娘との最後の旅行になるなんて、想像できなかった。

 2014年7月13日の午後8時頃だったと記憶している。警察からの電話で事件を知った。札幌市内の病院で遺体と対面し、なでた頬の冷たさに慄然(りつぜん)とした。「人形のようでした。現実とは思えませんでした」

 その日を境に「現実感」を失った。加害者の男(41)に「危険運転致死傷罪」の適用を求める署名活動に参加したり、刑事裁判の傍聴を続けたりもしたが、いつも別世界の出来事のように感じていた。

 あれだけ好きだった旅行に出かけても、心境は変わらなかった。判決の確定から2年後の19年春、転居を機に里枝さんの遺品をほとんど手放した。「楽しかった日々を思い出してつらくなるばかりだから」

 里枝さんがいなくなってから10回目の7月13日。日出子さんと夫、長男の3人は、ずっとお経を上げてくれている住職を自宅に招き、「いつも通りの月命日」を過ごした。