元都知事目線で見る「都知事選の争点」…インバウンド頼りでなく、東京を再び「稼げる都市」にするために必要な政策とは

AI要約

異常な都知事選が始まり、NHK党による「掲示板ビジネス」によってカオスな状況が生まれている。

都民の関心事は景気・雇用、少子化対策・子育て、医療・福祉などであり、東京の予算規模や税収の特徴が明らかになっている。

都知事の役割や財政の重要性について、過去の経験を交えながら説明がなされている。

元都知事目線で見る「都知事選の争点」…インバウンド頼りでなく、東京を再び「稼げる都市」にするために必要な政策とは

 56人が立候補するという異常な都知事選が始まった。また、NHK党による「掲示板ビジネス」のせいで、候補者とは縁もゆかりもない犬や猫の写真が掲示板に貼られるという前代未聞の事態となっている。

 今のところ、小池百合子、蓮舫、石丸伸二(前安芸高田市長)、田母神俊雄、清水国明、安野貴博らが有力候補とされている。カオスのような選挙であるが、肝心の政策論争はどうなっているのか。今、東京に必要な政策は何なのかーー。

 日本経済新聞が、6月21~23日に行った世論調査によれば、都民が「新しい都知事に最も力を入れてほしい政策」は、(1)景気・雇用(21%)、(2)少子化対策・子育て(19%)、(3)医療・福祉(13%)、(4)物価高対策(12%)の順であり、以下、(5)行政・財政改革、(6)地震などの防災対策、(7)教育、(8)都市再生・インフラ整備となっている。

 ウウライナ戦争、中東紛争、円安などで物価が上昇し、生活が苦しくなっていることが反映されている。しかし、景気や雇用、物価などは、主として政府の仕事であり、首都ではあっても、東京にできることは限られている。また、医療や福祉も全体の制度設計は国が行い、厚生労働大臣の仕事である。私は、厚労大臣と都知事の両方を務めたので、その点はよく分かる。

 東京のような大都市には、都市のインフラ整備などの重要な課題があるが、これは長期的課題であり、目先の利害に影響される有権者の関心をあまり引かない。

 東京の予算規模(2024年度予算)は、一般会計が8兆4530億円、特別会計が6兆1908億円、公営企業会計が1兆9146億円、合計で16兆5584億円にのぼる。これは、スウェーデン(約19兆円)やチェコ(約14.5兆円)の国家予算に相当する。また、職員数も16万6千人超である。

 東京には大企業の本社が集中しており、景気が良いときは、法人住民税、法人事業税が潤沢に入ってくる。したがって、東京都は豊かであり、国から地方交付税交付金を受け取っていない唯一の地方自治体である。

 そこで、能力が無い知事でも、都民から支持されるために簡単にばら撒きを行うことができる。しかし、不景気の時には法人税収が激減するので、好況の時に貯蓄をしておかねばならない。法人二税が税収の35%を占めているからである。

 景気が良く、企業の利益が上がると、税収も増えるが、逆に不況になると急減する。いわばジェットコースターに乗っているように、上昇、降下を繰り返す。だから、不景気に備えて「貯金」(財政調整基金)が必要なのである。私は都知事のとき、貯蓄の積み増しを図り、約9500億円を積み立て、また、都の借金(都債)を減らす努力もした。