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「見えにくい」介護現場での虐待 防ぐには
介護の人手不足が深刻化する中、虐待が問題となっている。
介護職の技術や知識不足が虐待の背景にあり、心理的虐待も深刻である。
定期的な虐待防止研修や人間関係の大切さが虐待防止につながる。
![「見えにくい」介護現場での虐待 防ぐには](/img/article/20240617/666f69c77829b.jpg)
介護の人手不足が進むなかで、虐待も深刻な問題です。大学で介護職を目指す学生の指導にもあたっている、城西国際大学福祉総合学部教授の林和歌子さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】
◇ ◇ ◇ ◇
◇起こるべくして
――介護の人手不足は深刻です。
林氏 介護が必要な人がいれば仕事の量は減らせません。年中無休のお店のようなものです。人手不足から施設の一部を閉鎖するところもでてきています。
少子化で若者の数が減っていることもあり、高齢化のスピードに介護人材の数が追いついていません。仕事量が増え、過労とストレスなどから自らのコントロールを失ってしまい、虐待にいたってしまうこともあります。
――医療や保育と同様、人が対象の仕事です。
◆虐待の背景の一つに、人手不足の結果としての技術や知識の不足があります。
介護福祉士を養成する大学や専門学校では、実習に教育過程の約4分の1を費やしています。本来は、仕事に就いてからも一定期間は利用者の状態などを理解して介護ができるように、教育や研修を続けることが必要です。
しかし、施設によってはかなり早い時期に、「独り立ち」、つまり一定の人数を1人で担当することなどを求められることもあります。
正しい技術や知識を身に付けるための教育に十分な時間をかけられず、虐待を招いてしまう危険性があることは否定できません。
◇見えにくい心理的虐待
――心理的虐待の問題も深刻です。
◆心理的虐待の場合、証拠が残りにくく、何を虐待とするかが難しいところがあります。
コロナ禍で虐待が増えたのも、家族やボランティア、実習生をはじめ外部の人が利用者のいるフロアまで入れなくなったことが原因の一つです。第三者の目がなければ、職員の発言がどれだけ乱暴になっているかは気が付かれにくいものです。
介護はサービス業であり、日常生活の延長にあります。利用者との関係は長く、5年も10年も続くことがあります。長く続く温かみのある関係のなかでの信頼関係とモラルが必要です。
◇日常はどうなっているか
――政府も対策をしています。
◆今年度から義務づけられた定期的な虐待防止の職員研修は必要なことです。問題を意識するきっかけになります。しかし、研修をやればよいわけではありません。
年2回の研修を完全に独自でやる余裕がある施設は、おそらく一部だと思います。外部業者のビデオを視聴するだけでは、効果はあまり期待できません。
虐待のない介護をする、という組織の意識が必要です。研修を入り口ととらえ、日常の介護のなかでどこまで行動に移せるか、組織で取り組まなければなりません。
――介護職は不可欠なわりにあまり認められていません。
◆仕事に対する誇りは、仕事を実際にしながら育つものです。キーワードは人間関係です。
職場の中で自分たちの介護が適切なのか、介護を受ける人たちのためになっているのか、と確認しあえる機会がある職場は離職率が低いのです。
自分たちのやっていることの意味を振り返る機会があると、おのずと仕事に誇りを持てるようになります。そうした人間関係のある職場は虐待も起きにくくなります。
◇ケアラーを大事に
――家族のなかでの虐待もあります。
◆介護は日常の生活のなかで少しずつ始まるものです。家族の場合は特に、それまでの背景が大きく影響します。
認知症と診断されても、かつてしっかりしていた母だったら、どうしても「なぜ今までできたことができないの?」と受け入れがたくなってしまいます。そうすると暴言や暴力が起きやすくなります。
止めるのは外部の目です。それは介護保険の役割であるべきです。今の介護保険は介護が必要な人が使う保険ですが、介護をする人にも使えるサービスが必要になってきています。ケアラーを大事にすることが、虐待防止に限らず大切です。(政治プレミア)