経営目標未達でパナソニックHDは課題事業整理に本腰、主力の車載電池は国内強化

AI要約

パナソニックHDは2024年3月期の中期戦略目標を未達とし、事業ポートフォリオ管理を強化する方針を示した。

車載電池や空質空調の収益が伸び悩み、事業基盤強化が必要とされている。

パナソニックHDは、継続的な改善と生産性向上を図り、今後の事業展開に注力する予定だ。

経営目標未達でパナソニックHDは課題事業整理に本腰、主力の車載電池は国内強化

 パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)は2024年5月17日、グループ戦略を発表。2025年3月期(2024年度)が最終年度となる中期戦略の目標で3項目中2項目が未達濃厚となったことから、重点領域のさらなる強化を進める一方で、事業売却や閉鎖などを含む事業ポートフォリオ管理を強める方針を示した。

 パナソニックHDでは、2024年度末までの経営指標(KGI)として、累積営業キャッシュフロー(2022~2024年度)2兆円、ROE(自己資本利益率)10%以上、累積営業利益(2022~2024年度)1.5兆円という目標を掲げていた。この内、累積営業キャッシュフローについては達成見込みだが、ROE、累積営業利益については未達が濃厚な状況になっている。

 パナソニックHD グループCEOの楠見雄規氏は「キャッシュフロー重視の経営は定着してきたものの、車載電池、空質空調、SCMソフトウェアというグループ投資領域で収益を出せず、収益を支えるべき事業で大幅な計画未達となった。期待に応えられない危機的な状況だと認識している」と述べる。

 こうした状況を受けて2024年度の取り組みとしては、まず、車載電池、空質空調、SCMソフトウェアの投資領域における事業基盤強化を進める。さらに、事業ポートフォリオマネジメントを強化し、成長性と投下資本収益性により各事業状況を精査し課題事業の一掃を図る。さらにグループの体質強化として、人的資本経営と現場革新、PX(パナソニックトランスフォーメーション)を推進する。

 パナソニックHDの事業をけん引すると期待された重点3事業において、車載電池と空質空調の2事業は、市況変化が予想以上となり、望む業績を得ることができなかった。

 車載電池事業については、普及帯EV(電気自動車)に見合うバッテリーコストが実現できていない点や、エネルギーの供給インフラ整備が不十分である点、米国排ガス規制基準値の緩和(2027年から適用)などから、北米EV(電気自動車)市場が減速し、関連するバッテリーの出荷も低迷した。さらに、安全性とコストの面から、より安いリン酸鉄系の角形リチウムイオン電池が普及価格帯EVで採用される傾向が生まれ、パナソニックグループが得意とするニッケル系の円筒形電池は1回の充電で走行可能な距離がより長いモデルに採用されるなど、すみ分けが進んだことも減速要因となった。

 これらに対し、強固な事業基盤強化に向け「顧客基盤の強化」「生産性の向上」「技術基盤の進化」の3点に取り組んでいく。

 顧客基盤の強化については、SUBARUと2023年8月に車載用リチウムイオン電池の供給に関する協業基本契約を行った他、マツダとも合意書を締結するなど、国内での提供先強化を進めている。加えて、高級EVの米国Lucid Airにリチウムイオン電池を供給する契約を締結した他、ノルウェーのHexagon Purusとの商用車向け車載電池供給契約を締結するなど、供給先の拡充を進めている。

 これに合わせて、リチウムイオン電池の生産能力および生産性の強化にも取り組む。現在稼働している米国ネバダ工場では、継続的な改善で生産性を2030年度までに2023年度比で15%向上させる計画だ。また、新たに稼働準備中で2024年度中に量産開始予定の米国カンザス工場では、先進の自動化技術などを採用することで、ネバダ工場比で人生産性を30%以上向上させることを目指している。さらに、住之江および貝塚の大阪工場では、省人化促進により人生産性を2028年度までに2022年度比で35%以上向上させる。

 さらに、技術基盤を強化するため、住之江工場内にR&D棟と生産プロセス開発棟などを立ち上げ、順次操業を開始している。新型の4680電池セルの開発についても予定通り進捗しており、2024年度第2四半期(2024年7~9月)に量産を開始する予定だ。

 これらの取り組みにより、2023年度の国内工場生産分の仕向け地は北米向けが99%以上だったのに対し、2030年度には国内向けが80%以上を占めるように“地産地消化”を進める。「国内向けでの供給を広げていくが、現時点ではどこに何の話をしているかを示すことはできない。自動車メーカーなどと協議を進めていく上で既存の工場での生産能力を超えた時にどこで生産するかは決めていくことになる」と楠見氏は生産能力についての考えを述べている。財務基盤としても2027年度以降、2桁%のROIC(投下資本利益率、IRA補助金込み)を維持できる体質を構築する。