「会社で活躍している人」の幸せを破壊したい…「陰で足を引っ張る人」が考えていること

AI要約

職場での人間関係で起こる陰湿な行動について解説。根性論や他人を見下す態度がどのような心理から生まれるのかを明らかにする。

嫉妬や羨望からくる行動が、自己保身や他者への悪意として表れる。例として、営業職の女性への無断欠勤の噂が拡散されたケースを紹介。

羨望や嫉妬からくる行動は、相手の幸福を破壊しようとする欲望として現れる。しかし、被害者側に能力がありチャンスを活かすことで、逆に成功を収めることもある。

「会社で活躍している人」の幸せを破壊したい…「陰で足を引っ張る人」が考えていること

根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。5万部突破ベストセラー『職場を腐らせる人たち』では、これまで7000人以上診察してきた精神科医が豊富な臨床例から明かす。

怖いのは、こういうことをしても必ずしもその人自身が得をするとは限らないのに、実行する人間がいることだ。先輩を蹴落としたからといって自分が主任に昇進できるとは限らない。同期を蹴落としたからといって自分がプロジェクトリーダーに抜擢されるとは限らない。後輩の女性アナウンサーを蹴落としたからといって自分が司会になれるとは限らない。それでもネガティブ情報を流して引きずりおろそうとする。

ときには、そういうことをする張本人に一体どんな得があるのかと疑いたくなるような場合でも、足を引っ張る。たとえば、保険代理店に転職したばかりの20代の営業職の女性は、以前の勤務先で無断欠勤して退職したという事実無根の噂を言いふらされた。

この保険代理店は、基本給が非常に低く、完全歩合制に近い給与体系になっている。しかも、毎月誰がどれだけの契約を取ってきたかがグラフで示され、順位もつけられる。転職したばかりの女性は営業成績が非常によく、だいたい3位以内に入っていたので、職場も営業職も自分に合っていると感じ、毎日張り切って出勤していた。

ところが、転職してから数ヵ月後、同僚の営業職の女性に「あなた、以前いた会社で無断欠勤したんだってね」と言われた。まったく身に覚えのないことだったので、「そんなことしたことありません」と言い返したが、「やましいところのある人ほど、そんなふうに否定するのよね」と言われ、周囲にいた数人の女性からもどっと笑い声があがったという。ちなみに、この保険代理店では営業職はすべて女性だった。

それ以来、他の営業職の女性からも「無断欠勤したんだってね」と言われるようになり、出勤しようとすると吐き気や動悸が出現するようになったので、私の外来を受診した。処方された抗不安薬を頓服として服用しながら、何とか勤務を続けていたが、嫌気が差して、1年も経たぬうちに外資系の完全歩合制の保険会社に転職し、現在はバリバリ稼いでいる。

転職してきたばかりの若い女性が無断欠勤したという根も葉もない噂を流した人にも、その噂を本人に面と向かって言った人にも、一体どんな得があるのだろうかと疑問を抱かずにはいられない。事実無根の噂を流した張本人が誰かはだいたいわかったそうだが、その女性にせよ、面と向かって「無断欠勤したんだってね」と言った女性にせよ、みな営業成績はずっと下のほうだったという。

営業成績が上位で、転職してきたばかりの女性とトップを争っていた女性が、事実無根の噂を流したのであれば、ライバルを蹴落として自分が一番になりたかったのだろうと、その動機を理解できなくもない。しかし、営業成績がさえず、最下位に近いあたりをうろうろしていた女性がこういうことをして一体何の得があるのだろうか。事実無根の噂を流された女性が退職したからといって、自分の営業成績が伸びるわけではない。せいぜい順位が一つ繰り上がるくらいだろうが、それでも成績が底辺であることに変わりはないはずだ。

とくに、面と向かって悪い噂をぶつけるようなことをすれば、恨まれるかもしれないし、場合によっては仕返しされるかもしれない。損か得かで考える合理的思考の持ち主ほど、このようなふるまいは決してしないはずだ。

にもかかわらず、事実無根の悪い噂を流したり、その噂を本人にぶちまけたりするのは、転職してきたばかりの若い女性に対する羨望、つまり他人の幸福が我慢できない怒りに突き動かされているからだろう。

「優秀な30代女性が休職まで至った「まさかの原因」…意外と多い「陰で足を引っ張る人」の正体」で取り上げた20代の後輩社員も、怪文書をファックスで送ったと思しき同期の男性や先輩の女性アナウンサーも、やはりターゲットに対して羨望を抱いていた可能性が高い。

羨望はヒリヒリと身を焦がす感情なので、この感情をかき立てる相手が手にしている幸福を破壊してやりたいという欲望が募りやすい。そのため、自分がやったと発覚しにくい手段にせよ、自分の仕業とばれるリスクを伴う手段にせよ、羨望の対象の幸福をぶち壊そうとする。

思惑通りにいって、相手が悲しんだり悔しがったりする姿を見ると、しめしめとほくそ笑む。まさに、「他人の不幸は蜜の味」という言葉通りだ。しかし、ターゲットにされた側に能力があり、それ相応の努力もできると、外資系の保険会社に転職した女性のように、ピンチをチャンスに変えて成功し、見返すことだってできる。まさに典型的な「幸福こそ最大の復讐」といえよう。

つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。