【トヨタもスバルも敵わなかった】新井大輝、地元群馬で完勝! まさかのミスを帳消しに【JRC第5戦モントレー2024】

AI要約

新井大輝選手がJRC第5戦「モントレー2024」で総合優勝し、苦労の連続だったが勝利を挙げた。

新井選手はセッティングミスや中古のラリーカーの問題に直面しながらも、タイムを取り戻すために全力で戦った。

新井選手は次なる課題として、残り3戦でのグラベルラリーに備えている。

【トヨタもスバルも敵わなかった】新井大輝、地元群馬で完勝! まさかのミスを帳消しに【JRC第5戦モントレー2024】

「自分のクルマのことと、チームでエントリーしているもう1台のGRヤリスのことも含めて、ラリー前にやることが盛りだくさんでして。本当に疲れました。だから、なおさらこの地元ラリーでの勝ちはうれしいです」

そう語ったのは、JRC(全日本ラリー選手権)2024の第5戦「モントレー2024」で総合優勝した新井大輝選手だ。全10本のSS(スペシャルステージ)中9本をベストタイムで制するなど、他を圧倒。はたから見ればさぞかし余裕の勝利だったのかと思いきや、その裏では苦労の連続だったようだ。

■大きなミスを帳消しにするため

2022年以来2年ぶりの開催となったモントレー2024は、ホストタウンを群馬県安中市へと移し、2024年6月8日に開幕した。レグ1は、人気漫画で世界的にも有名になった碓氷峠の旧道ステージを含む3つのSSを、午前と午後で2ループする計6ステージで争われた。国道18号の碓氷峠をラリーで利用するのは史上初の試みでもあり、ギャラリーも多く集まった。天候は晴れ、路面コンディションはドライ。“ターマックロケット”たちが安中市のサービスパークをスタートし、ラリーが始まる。

新井大輝/松尾俊亮 組のシュコダ ファビアR5は、オープニングSSこそ落とすものの、残りの2つでステージベストをマーク。碓氷峠を走るSS3「Old Usui Touge 1」でも2番手に1.3秒差をつけた。

しかしこのレグ1午前のループ、新井/松尾 組は重大なミスを犯していた。「前戦でのウエット(路面)のセットアップのままで、元に戻すのを忘れてました。まったくスピードが乗らないからおかしいと思ったんです」。なんと、ドライのセッティングではなかったのだ。地元群馬のステージだから速いのは当たり前と考えるかもしれないが、新井選手自身は今回のステージをラリーで走るのは初めて。ほかのクルーに比べてアドバンテージがあるわけではない。それでもステージベストを獲れた理由はなんだったのだろう?

「特に3本目の碓氷峠のステージは、絶対に負けたくなった。それはボクよりも、じつはコドラの松尾くんのほうが強く思っていましたね。ウエットのセットでは負けるかもしれないので、碓氷峠だけブースト圧を最大にしてフルパワーでアタックしました」。新井選手と松尾選手、2人の強い思いがステージウインを手繰り寄せたのかもしれない。

午前の3本を終えて2位とは4.4秒差。そしてあらためてドライにセットし直して望んだ午後のループでは、本来の速さを取り戻し3SSすべてを制する。レグ1を終えて、後続との差は19.2秒にまで広がっていた。しかし、新井選手は決して手を緩めなかった。

■つねに全開にできない理由

ここで新井選手のラリーカーについても軽く触れておこう。今季はシュコダ ファビアR5という、ラリー2規定のクルマへと乗り換えた新井選手だが、じつはこの個体は昨季までヘイッキ・コバライネン選手が操りJRCチャンピオンを獲得したクルマそのもの。いわゆる中古で購入したラリーカーだ。

チーム間でのクルマの売買はラリーの世界では当たり前の光景だが、この個体の問題は何チームも渡り歩いているためマイレージ(クルマ自体の総走行距離)がかさんでいるという点。本来であれば、もうあまり走らせないほうがいいと判断するほど距離を走っている個体なのである。そうなると当然、クルマのあちこちにトラブルが出てくる。

先述の「碓氷峠でブースト全開にした」のコメントは、クルマを労りながら走っていることを前提にした言葉だ。逆をいってしまえば、新井選手はほとんどのステージで全開ギリギリのアタックがしたくてもできない状態なのである。しかし、そんな足枷を百も承知でも乗り換えたのは、JRCチャンピオン奪還のため。ラリー2カーのスピードには、同じ規定のクルマでしか対抗できないからだ。

■前日からさらに進化した?

そして迎えた翌6月9日のレグ2は、御荷鉾(みかぼ)スーパー林道を含む2つのSSを午後にそれぞれリピートする計4ステージで構成された。前日と違い空を雲が覆う天候とはなったものの、路面は相変わらずドライ。この日も新井/松尾 組は最速タイムを刻み続け最終フィニッシュを迎える。ラリーの全10SS中9つのステージでベストタイムをマークし、圧倒的な勝利を収めた。

セレモニアルフィニッシュ前のTC(タイムコントロール)でホッとした表情を見せていた新井選手に近寄り、インタビューをする。全ステージが終わって、2位との差を30.0秒にまで広げられた理由を聞いたところ、「今日はタイトターンが速く走れるようにセッティングしました。サイドブレーキレバーを引いてセンターデフをフリー状態にする機能(ラリー2規定特有の機能)を、しっかり使えるように調整したら曲がりやすくなりました。そこがスピードアップの理由かと思います」との回答だった。

勝って兜の緒を締めよということわざではないが、ラリードライバーのスピードに対する探究心はやはりひと味違う。前日の時点で圧勝していたにも関わらず、まだ進化をやめない。ステージに合わせた適応力を随時反映させていくこの姿勢こそが、数多くのライバルを相手に優勝できる原動力なのであろう。冒頭の疲れたというコメントからわかるように新井選手は疲労困ぱいの様子だったが、表情はじつに晴れやかだった。

■チャンピオンシップの行方はどうなる!?

さて、今後の王座の行方も含めたJRCの展開だが、ここまでのターマック5戦の結果は新井選手が3勝、勝田範彦選手が2勝。勝率では新井選手のほうが上まわってはいるが、獲得ポイント数で勝田選手がリード。JN1クラスのチャンピオンシップは、第5戦終了時で勝田選手がリーダーとなっている。

この先は残り3戦で、グラベルが2戦、ターマックが1戦。グラベルは新井選手が得意としているものの、クルマを労わりながらの走行と、2年ぶりのグラベル走行となるブランクが足枷になるかもしれない。アドバンテージは依然として勝田選手のほうにあると見たほうがいいだろう。

しかし、北海道のグラベル2戦はアベレージスピードが高いことも特徴。欧州で武者修行をしてきた新井選手にとっては、スピードレンジが高いことが有利に働く可能性もある。いずれにせよこのグラベル2戦は、シーズンを決定づけるラリーとなるはずだ。

自身のYouTubeチャンネル内でも宣言しているとおり、新井大輝選手は今季、ワークスチームをプライベーターチームが打ち負かすという下剋上を狙って奮闘中。はたして、悲願のJRCタイトル奪還なるか? 残り3戦も目が離せない。

<文=青山朋弘 写真=ドライバーWeb編集部>