一つの機械のように機能する「プログラム型」の組織

AI要約

プログラム型組織は、厳格な階層とプログラム化された業務に特化しており、不確実性を避ける構造を持つ。業務は綿密に分業され、トレーニング期間は短く、標準化されたルールに従う。

アナリストやサポートスタッフなど、厳格な分業体制のもとで機能する各部門が組織を支え、政治的な駆け引きも発生する。内部に多くのサポートサービスを持ち、市場の不確実性に対処する。

プログラム型組織は、古代から存在する形態であり、機械的な構造を持つ組織であることが特徴的である。

一つの機械のように機能する「プログラム型」の組織

■プログラム型組織──工程が定められている機械

自動車ビジネスでは、不確実性こそが最大の敵である。

――トーマス・マーフィー、ゼネラルモーターズ(GM)の元CEO

 本章では、最もシンプルな構造を取り上げた前章に続いて、その対極にある構造、つまり最も手の込んだ構造に目を向ける(ただし、最も手が込んでいることは、最も複雑であることとイコールではない)。プログラム型組織(プログラムド・マシン=工程が定められている機械)の図には、本書『ミンツバーグの組織論──7つの類型と力学、そしてその先へ』の原型となった著作で組織全般を表現するために用いた図を流用する(図表8-1)。第2章でも述べたように、この図は、旧来型のピラミッド型の組織観を反映したものだからだ。

 プログラム型組織は、ピラミッド型の階層と、秩序、コントロール、システム、そしてことのほかルールを好む。ありとあらゆるものをプログラム化しようとするのだ。ときには、顧客すらその対象になる(あなたもファストフード店で食事をしたあと、トレイを自分で片づけたことがあるだろう)。こうしたことはすべて、組織をひとつの機械のように円滑に機能させることが目的だ。GMの元CEOが不確実性を最大の敵と呼んだ根底にあったのも、このような認識だった(対照的に、起業家にとっては不確実性が最大の味方になる場合もある。パーソナル型組織がプログラム型組織に打ち勝つのは、不確実性を味方につけたときだ)。

 スポーツの世界では、厳格な分業体制と徹底したプログラム化に関してフットボールの右に出る競技はない。ルールや定石により、誰がボールを保持し、キャッチし、キックするかが細かく決まっている。チアリーダーだけでなく、フィールド内のプレーヤーの配列も詳細に定められている。この点は、ヨットレースとはまるで違うし、アイスホッケーとも違う。また、フットボールのチームには、階層も組み込まれている。コーチがときに無線でフィールド上のクオーターバックに作戦を指示し(その際はさまざまな作戦を数字で表現する)、クオーターバックがほかのプレーヤーにその作戦を伝える。そして、すべてのプレーヤーがそのとおり行動するのだ。フレデリック・テイラーの科学的管理法に基づく数値評価をおこなうためにあるような競技と言っていいだろう。

■プログラム型組織の基本構造

 あらゆる機械は、さまざまな部品によって構成されている。そして、それぞれの部品は、注意深く設計された全体のために、それぞれに与えられた役割を果たす(だから、プログラム型組織では、「管理次官補付の管理担当補佐官」などという役職もありうる)。ユヴァル・ノア・ハラリは、著書『サピエンス全史』(邦訳・河出書房新社)でこのように記している。「官僚制の下では、ものごとを切り分けることが重要になる。(購買、製造、販売……といった具合に)ひとつひとつ別々の引き出しが用意される。こうしておかないと、目当てのものを探せなくなるからだ。ひとつの引き出しに分類し切れないものがあると……それは大きな頭痛の種になる」

 プログラム型組織の業務コアで実行される業務は、できる限りシンプルで、専門特化していて、反復性の高いものになる。人々が最低限のトレーニングで業務を実行できるようにすることが狙いだ。この種の組織でトレーニングに費やされる期間は、しばしば数時間、ことによると1時間に満たない場合もある(ただし、フットボールは例外だ。この点については後述する)。さまざまな職種の間の調整は、成果の標準化の助けを借りつつ、主に業務の標準化を通じて実現する(ファストフード店では、たとえば「17秒でハンバーガーのパティを裏返すこと」といった具合に業務を標準化している)。これにより、ボトムマネジャーが大勢の働き手を監督できる。以下は、あるプログラム型組織を描写した文章である。

 あらゆる事業活動は、あらかじめ決められたプランに基づいて実行される。……多くの明確な指示が発せられ、業務は課題と専門性に基づいて(「徹底した分業体制」の下で)組み立てられている。また、部下の仕事ぶりは、緊密に、そして効率的に監督される。

 これは、古代メソポタミアの神殿組織について記された文章である。プログラム型組織という形態は、太古の時代から存在したのだ!

 パーソナル型組織が最高位者を中心とする「ハブ」のような構造だとすれば、プログラム型組織は「チェーン」を積み重ねたような構造になっている。この点を表現したのが章の冒頭に掲げた図表8-1である。いちばん下に位置するのは、業務が水平方向に順次引き継がれていくチェーン(自動車工場の組み立てラインのようなイメージだ)。その上には、垂直方向に指揮命令のチェーンが延びていく。いくつもの階層のマネジャーが積み重なっているのだ。

 ライン部門の階層が幾層も積み重なっている横に位置するのは、スタッフ部門のアナリストたちだ。この人たちが組織という「機械」の歯車の働き方に関して基準を設計し、コントロールする。そのような人たちには、「作業研究アナリスト」「生産スケジュール設定者」「プランナー」「予算編成担当者」「経理担当者」といった肩書がついている。この種の組織では、業務をおこなうオペレーターと、業務を管理するマネジャー、業務のあり方を設計するアナリストの間に、きわめて厳格な分業体制が確立されている。そのなかでも、アナリストたちによって構成される「テクノストラクチャー」が果たす役割がきわめて大きい。ライン部門のマネジャーたちには正式な権限が委譲されるが、スタッフ部門のアナリストたちは非公式の権力をもっている。その権力を通じて、ライン部門のマネジャーも含むすべての人たちの行動に影響を及ぼすのだ。アナリストたちがつくるルールには、誰もが従わなくてはならないのだ。一例を挙げよう。

 この大企業の社長を務めていた頃は、主力工場のあるオハイオ州の小さな町で暮らしていました。誰とどのくらい付き合うべきかは、会社が具体的に決めていました(ここで妻が言葉を挟む。どなたの奥さんとトランプを楽しんでよいかも決められていたんですよ、と)。小さな町なので、わざわざ会社が見張る必要はありませんでした。誰もが互いのことを知っているような町だったのです。私たちはいくつかのルールに従って行動していました。

 このように、プログラム型組織における権限委譲は部分的なものになる。そして、ライン部門のマネジャーへの権限委譲は正式なものだが、より多くの権限が委譲されるのはスタッフ部門のアナリストたちだ。その結果、ライン部門とスタッフ部門の間でしばしば政治的な駆け引きがおこなわれる。

 アナリストたち(テクノストラクチャー)と同じく、図でライン部門の横に位置するのがサポートスタッフたちだ。権限は大きくないが、人数は多い。この種の組織が円滑に機能するのを支援する役割を担う人たちである。働く人たちの空腹を満たすカフェテリアに始まり、訴訟に対処する法務部門(企業が関わる訴訟は、ときに膨大な数に上る)にいたるまで、さまざまな部門がある。サポートスタッフの数が膨れ上がる一因は、プログラム型組織でコントロールがきわめて重んじられることにある。サポートスタッフが担うサービスの多くは、外部の業者に発注することも可能だが、そうすると市場の不確実性にさらされることになる。そこで、「買うのではなく、自分でつくる」という発想になりやすい。できるだけ多くのサポートサービスを社内に抱え込もうとするのだ(本書『ミンツバーグの組織論』第20章では、これとは正反対の最近の潮流について論じる)。