ビール列車があるのに、なぜ「京急蒲タコハイ駅」は非難された? 現地で聞いた「何が悪かったのか」の声

AI要約

サントリーと京浜急行電鉄がタッグを組んだ「京急蒲タコハイ駅」イベントが、5月18日~6月16日に大田区商店街連合会の協力のもと、開催された。

イベントは、「京急蒲タコハイ駅酒場」や「蒲タコハイ祭」などが行われ、地域密着のマーケティング手法が注目を集めた。

しかし、アルコール依存症予防団体からの批判を受け、一部実施内容を変更して対応した。

従来から駅や電車を利用した居酒屋イベントは行われており、他の鉄道会社でも同様の取り組みが見られる。

健康に配慮した飲酒に関するガイドラインの発表を受け、今後公共の場でのアルコール提供に関する規制が強化される可能性がある。

厚生労働省の取り組みやWHOの影響により、アルコール規制が強化されつつあり、飲食業界に大きな影響が出ている。

ビール列車があるのに、なぜ「京急蒲タコハイ駅」は非難された? 現地で聞いた「何が悪かったのか」の声

 サントリーと京浜急行電鉄がタッグを組んだ「京急蒲タコハイ駅」イベントが、5月18日~6月16日に大田区商店街連合会の協力のもと、京急蒲田駅周辺で開催された。

 京急蒲タコハイ駅イベントの内容は大きく2つある。

 1つは、5月18~19日と6月8~9日に、サントリー「こだわり酒場のタコハイ(以降、タコハイ)」と蒲田のソウルフード「餃子」が楽しめる「京急蒲タコハイ駅酒場」が駅ホームに開店するというもの。餃子は蒲田の人気店「ニーハオ」「ホアンヨン」から提供された。

 もう1つは、京急蒲田駅周辺の飲食店でタコハイ1杯が半額で楽しめる「蒲タコハイ祭」(5月18日~6月16日開催)。参加店は、居酒屋を中心に、ダイニングバー、スナック、焼肉、ラーメン店など多彩な業態45店に上った。

 また、サントリー公式Xアカウントをフォローして、対象の投稿をリポストした人から抽選で50人に「京急蒲タコハイ駅 オリジナルTシャツ」をプレゼントした。

 駅、街の商店街、バーチャルが一体化した、地域に密着しつつも全国に広がる、上手なマーケティングだったと思う。

 ところが、アルコール依存症の予防に取り組むNPO法人ASKと主婦連合会は、「期間限定であっても駅の呼称を『京急蒲タコハイ駅』とするなど、駅の公共性を完全に無視した愚行」と非難。一部イベントの中止を求める申し入れ書を、5月17日に両社へと提出した。

 サントリーと京急は、申し入れ書を真摯に受け止めた。まず、「京急蒲タコハイ駅」と変更した駅の看板を、元に戻した。また、駅構内の広告の露出を減らすなど、一部実施内容を縮小して対応した。

 本件に関しては、「京急蒲タコハイ駅イベントのいったい何がいけないのか?」と疑問に思った人も多かったのではないだろうか。

 京急蒲タコハイ駅の騒動が起きる前から、駅のホームを利用した居酒屋イベントは期間限定で過去に何度か開催されてきた。

 JR総武線・両国駅のホームでは、燗酒とおでんなどを楽しむイベントが何度か開催されている。

 2016年から、京阪電気鉄道・中之島駅で、ホームと車両が居酒屋になるイベントも実施され、サントリーがビールを提供している。

 駅のホームどころか、電車の車両そのものが居酒屋になる、ビール列車、ワイン列車などの企画列車も運行されている。

 また、京急は久里浜線終点の三崎口駅を「三崎マグロ駅」に変え、三浦半島の観光振興を図るイベントを実施している。2018年には、人気漫画『北斗の拳』とのコラボで上大岡駅を「上ラオウ岡駅」、京急蒲田駅を「京急かぁまたたたたーっ駅」などに変えるといった取り組みもしてきた。イベントでの駅名変更による集客は、京急のお家芸でもあった。

 そうした実績を積み重ねてきた上での京急蒲タコハイ駅イベントだった。

 これまでのイベントは“愚行”ではなくて、今になって“愚行”と新しく解釈された形で、環境の変化が起きたと考えられる。

 その変化とは、2月19日に厚生労働省が発表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」だ。当該ガイドラインは、「避けるべき飲酒等について」として、5つの項目を挙げている。

 このうち、酒に関する産業に影響を与えそうなのは、「一時多量飲酒(特に短時間での多量飲酒)」だ。いずれ居酒屋・パブなどの飲み放題は続けられなくなると言われている。さらに、将来的には公共の場でのさまざまな酒の提供に関する禁止事項が、タバコと同じように法制化される可能性がある。

 2020年4月に改正健康増進法が全面施行されたことで、全ての公共施設が原則屋内禁煙となった。望まない受動喫煙による、肺がんなどの健康被害から非喫煙者を守るのが目的だ。

 厚労省のバックにはWHO(世界保健機関)がいて、タバコの次は酒の規制だと、飲食関係者の間では言われてきた。いよいよ本格的に動き出した印象がある。