欧州vs中国「EV戦争」 最高48%の関税賦課も、中国の“報復措置”はまだ起きそうもないワケ

AI要約

欧州と中国の間でEVを巡る対立が激化しており、両者の関係が今後どうなっていくかが注目されている。

中国は欧州市場を重視しており、強硬な報復措置には出にくいとみられている。

欧州も中国との経済関係を損ねたくないため、関税引き上げはバランスを取った措置といえる。

欧州vs中国「EV戦争」 最高48%の関税賦課も、中国の“報復措置”はまだ起きそうもないワケ

 バイデン政権が5月に中国製の電気自動車(EV)に対する関税を25%から100%に引き上げる方針を発表したなか、今後は欧州と中国との間でもEVを巡る対立が激しくなる可能性が出てきた。

 欧州連合(EU)は6月、中国から輸入されるEVについて、中国政府からの不公正な補助金によって過剰生産され、それが欧州に流入することで欧州の自動車メーカーが損害を受けるおそれがあるとして、最大で38.1%の関税を上乗せする方針を発表した。

 税率は現行の10%に上乗せする形で最大で48.1%となるが、自動車メーカーによって追加関税の税率は異なり、上海汽車には最も厳しい38.1%の追加関税が課され、比亜迪(BYD)が17.4%、吉利汽車が20%などとなっている。

 現在のところ、EUが関税率を引き上げても中国製EVの欧州への流入に大きな影響は出ないとの見方があがっているが、当然ながら中国はこれに強く反発し、

「EUは世界貿易機関(WTO)の規則や再三にわたる中国側の異議を無視した。われわれは中国企業の正当な権利と利益を断固として守るため、あらゆる措置を講じる」

と警告している。では、今後EVを巡る欧州と中国の関係はどうなっていくのか。ここでは、政治的な背景や思惑、米中間のEV覇権競争とも比較しながら考えてみたい。

 まず、今後の中国側の反応だが、習政権が今回の関税引き上げに対して強硬な報復措置に出るとは考えにくい。これにはふたつの理由がある。

 第一に、今日中国製EVは英国やベルギー、スペインなど主な輸出先が欧州であり、ここで中国が強硬な報復措置に打って出れば、欧州との間でも“米中貿易摩擦”が生じるおそれがあり、EVを大量生産して諸外国に輸出する戦略を重視する中国にとってEVの欧州市場は極めて重要である。

 第二に、中国が強硬な報復措置に出れば、欧州の間で中国警戒論がいっそう広がるだけでなく、欧州と米国が対中国でいっそう協力を強化する可能性がある。

 去年の広島サミットでは中国の経済的威圧に対する懸念が共有されたが、習政権として多国間による対中対抗網が強化されることを避けたい。習氏がフランスを訪問したり、ドイツのショルツ首相が中国を訪問したりと、中国には欧州諸国と独自の経済関係を維持、発展させることで米国と欧州をデカップリングさせる狙いがあり、対中国で国際協調を図ろうとするバイデン政権を強く警戒している。こういった政治的に照らせば、今回の欧州による関税引き上げで、中国が強硬な報復措置に出る可能性は低いといえるだろう。

 一方、今回のEU側の関税引き上げ措置からは、中国に対する警戒感はあるものの、中国との既存の経済関係を必要以上に悪化させたくないという実情も読み取れる。当然だがEUといっても加盟国によって対中警戒では温度差があり、米国のような対中強硬姿勢に撤する国はない。

 米国や日本のように、欧州は中国と直接軍事や安全保障上の対立関係にはなく、

「米国や日本にとっての中国は、欧州にとってのロシア」

であり、米国や日本と“中国感”が同じではない。中国との経済的結び付きが強い国も多く、そう国々としては

「必要以上に中国を挑発するような行為」

は避けたいはずだ。また、欧州にはオランダのように温暖化を原因とする海面上昇によって国土がなくなる危機に直面している国もあり、環境対策に対する意識が極めて高く、中国製EVに対するニーズもある。しかし、冒頭でも指摘したように欧州の自動車メーカーを保護するという任務もあるため、今回の措置は双方の間でバランスを取ったものともいえよう。