ナチス強制収容所の99歳速記係に有罪 「史上最後のナチス裁判」か

AI要約

ドイツ連邦裁判所は、ナチス・ドイツの強制収容所で速記タイピストとして働いたフルヒナー被告(99)の上訴を棄却し、殺人ほう助罪などで禁錮2年の判決が確定した。

フルヒナー被告は1万人以上の殺害に関与し、収容所での殺人行為をほう助したが、未成年であったため執行猶予が付き、収監はされない。

ドイツは1979年にホロコースト関連の時効を廃止し、ナチス戦犯の追跡を行ってきたが、関係者の高齢化により今回が「史上最後のナチス裁判」となる可能性がある。

ナチス強制収容所の99歳速記係に有罪 「史上最後のナチス裁判」か

 ドイツ連邦裁判所(最高裁に相当)は20日、第二次大戦中にナチス・ドイツの強制収容所で速記タイピストとして働き、1万人以上の殺害に関与したとして殺人ほう助罪などに問われた女性のイルムガルト・フルヒナー被告(99)の上訴を棄却した。これにより、禁錮2年の下級審判決が確定した。被告は当時18~19歳の未成年だったため執行猶予が付き、即座に収監されることはない。

 ドイツ(西独)は1979年、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)に関与した人物を訴追するため「謀殺」(計画的殺人)に関する時効を廃止し、戦犯を追跡してきた。だが関係者も既に大半が死亡または高齢化しており、独メディアは今回が「史上最後のナチス裁判」になると報じている。

 ドイツ公共放送ARDなどによると、フルヒナー被告は43年6月~45年4月、当時ナチスの支配下だったポーランド・ダンチヒ(現グダニスク)近郊のシュツットホーフ収容所の所長室で、速記タイピスト兼秘書として勤務。ユダヤ人らをガス室で殺害したり、アウシュビッツ収容所に移送したりする書類手続きに関与し、1万505人の殺人と5人の殺人未遂をほう助した。

 弁護側は「被告は自身が犯罪組織の一員と認識せず、仕事は通常の秘書業務だと思っていた」と無罪を主張したが、連邦裁は「収容所のほぼ全ての書類は、彼女の机を通過した。上司の犯罪行為を知りながら、それに加担した」と有罪を認定した。

 ドイツでは近年、殺害行為に直接関与していないナチス関係者の法的責任を追及する動きが活発化している。収容所の看守だったことが証明されれば殺人ほう助罪が成立するとの判例が2011年に出て以降、元看守らの訴追も相次いだ。

 フルヒナー被告は21年に起訴されたが、裁判の初日に出廷せず、入居していた高齢者施設から脱走し、タクシーで逃亡を図った。その後逮捕されたが、以後は足首などに全地球測位システム(GPS)端末を装着することを条件に釈放されていた。【ロンドン篠田航一】