2029年には米大統領? バンスとは何者か:その人物像と思想

AI要約

トランプ前大統領に似た極右の共和党副大統領候補J・D・バンス上院議員について、女性からの批判や労働者階級への連帯など彼の政治思想に注目が集まっている。

バンスは従来の共和党保守政治を否定し、労働者寄りの政策を打ち出しており、トランプ以上に米国の政治に大きな影響を及ぼす可能性がある。

共和党全国大会でのバンスの演説や労働組合の関与は、共和党の変貌を示しており、将来的には第2次トランプ政権において重要な役割を果たすことが期待されている。

2029年には米大統領? バンスとは何者か:その人物像と思想

会田 弘継

すい星のように現れた米共和党のバンス次期副大統領候補。ベテラン国際ジャーナリストが、その政治思想を解きほぐす。トランプ前大統領と相似形と見られているが、主張が異なる面もあると指摘する。(本文一部敬称略)

トランプ前大統領以上にトランプ的。極右。反トランプから寝返った風見鶏──2024年大統領選挙の共和党副大統領候補J・D・バンス上院議員(40)への大方の評価、というより悪評だ。特に女性からは毛嫌いされている。妊娠中絶禁止を求める強硬姿勢や、子どものいない独身女性を批判したことへの反発はとりわけ厳しい。トランプ再選の足を引っ張るのでは、という観測さえある。

ただ、こうした激しい批判は米国の大統領選挙に付き物だ。主流派メディアの民主党寄りの偏向(それに依存しがちな日本の報道)も割り引いて考えないと、選挙戦ばかりか米政治の見通しも見誤りかねない。

アパラチア山系地域の一角にある「ラストベルト(さびついた工業地帯)」の貧困家庭からはい上がるようにして登場し、たった2年の上院議員経験で副大統領候補にのし上がった。仮に今秋の選挙でトランプと共に当選すれば、わずか4年後には次期大統領に最も近い位置にいる。その時40代前半である。人物像や思想についてもっと掘り下げてみるべきだろう。

バンスが副大統領候補になったことで、2016年以来「トランプ党」になってしまった共和党が、第2次トランプ政権を経て向かう方向性ははっきりしてきた。7月の共和党全国大会におけるバンスの副大統領候補指名受諾演説(同月18日)に、それがくっきりと見える。

トランプ第2期政権は4年で確実に終わる。早期のレームダック(死に体)化を避けるにはトランプ・バンスの協調がカギだ。バンスは早くから政権継承者として重きをなすことになる。指名受諾演説は、4年半後に実現する可能性があるバンス政権を知る重要な手掛かりだ。

演説は、共和党内の「旧体制派」(メディアは「穏健派」とも呼ぶ)に衝撃を与えた。金融危機を引き起こした「ウォール街の強盗集団」を叩き、アフガン・イラク戦争の失敗、多国籍企業や自由貿易を批判し、「これまでの政治家は失敗を積み重ねてきただけだ……ウォール街のご機嫌とりはもうたくさんだ。われわれは労働者のために尽くす」と宣言した。

これはトランプ前大統領が2017年の1期目の就任演説で、エリートがラストベルトの荒廃を無視している状態を「米国の殺りく」と表現したのと似たところがある。

バンスはトランプ以上に、従来の共和党保守政治を否定しようとしている。労働者階級への連帯を表明したその指名受諾演説で、減税も「小さな政府」もうたっていない。テロとの戦いもない。いわゆるネオリベラル経済政策やネオコン型の積極的対外政策を特徴とするレーガン大統領以来の保守政治を否定しているのは明らかだ。

共和党全国大会の初日、最大級の労働組合であるチームスターズ(全米トラック運転手組合)のショーン・オブライエン委員長が同労組の121年にわたる歴史上初めて同大会で演説したことも、バンス演説とともに、労働者寄り政党の色彩を強める共和党の変貌を象徴した。