五輪を見て思う「そろそろ、人間の能力の限界なのでは?」─研究者の見解は

AI要約

水泳選手が世界記録更新を続ける中、陸上競技の限界に疑問が投げかけられている。

一部の選手は限界など存在せず、常に記録を更新し続けることを信じている。

研究者らはスポーツの限界について議論し、未だ改善余地があると示唆している。

五輪を見て思う「そろそろ、人間の能力の限界なのでは?」─研究者の見解は

「より速く、より高く、より強く」──五輪のモットーは「もっとも速く、もっとも高く、もっとも強く」ではないのだ。これは、限界はないということを暗に示しているのだろうか? 人間はどんな種目においても常に進化し続け、過去の記録を打ち破り続けることができるというのだろうか?

競泳の中国代表、潘展楽(19)が今回のパリ五輪で成し遂げた快挙は、それを裏付けているように見える。潘は7月31日、男子100m自由形で、自身の持つ世界記録を更新し、金メダルを獲得した。

水泳は、ハンマー投げや走り高跳びといった長い間記録が伸びていない種目と比較して、新記録がいまだに出続けている。米「ワシントン・ポスト」紙によると、過去10年間で水泳は、陸上トラックでおこなわれる五輪の個人競技と比較して、一種目あたり43%も頻繁に世界記録が更新されているという。

では、陸上競技はそろそろ限界に来ているのだろうか? これを否定するのが、米短距離走選手のノア・ライルズ(27)だ。200m走において歴代3位の実績を持つライルズは、「限界」という概念そのものを否定し、パリ五輪では自身が「地球上でもっとも速く走れる男」だと証明するつもりでいる(彼の考え方で言えば、いずれその記録が打ち破られるのを持ちながら、ということになるのだが)。

ライルズが抱く野望は、200mを18.6秒で走り、ジャマイカのウサイン・ボルトが持つ19.19秒という世界記録を破ること。だが、ワシントン・ポストは「ライルズは生物学者マーク・デニーの研究を知らないのだろう」と皮肉る。もし知っていたとしたら、「人間の200m走の限界タイムは、18.63秒だと知っているはず」だと。

2008年、デニーは、犬と馬の競走データと人間の陸上競技の公式記録を紐付け、距離ごとに人間が出すことができる最速の記録を推測した。それから16年経つが、彼の推測が外れたのはたった一度、マラソン女子の記録のみだ(当時はまだ女子マラソンのデータが多くはなかった)。

だが、ワシントン・ポストは「極端に言えば、人間が限界に達するという事実は、競技の本質すら変えてしまう」と書く。「一人目が限界に達し、もう一人、次に一人……というように、将来、五輪の100m走の決勝では、9人が同じ速度で走り、それ以上加速する可能性がなくなってしまう」

一方で、もしもスポーツに限界があるとすれば、「まだそれは先の話」だと言うのは、6月24日に学術誌「サイエンティフィック・リポーツ」に発表された論文の著者らだ。

彼らは2001年から2020年に全世界で開催された男女陸上競技と水泳競技、23種目を分析し、こう示した。「我々の調査結果は、人類はスポーツのパフォーマンスにおいて、まだ各種目の限界には達していないこと、時間とともに継続的に向上を続けることを示唆している」