「与党内野党」自任したハン・ドンフン代表…尹‐ハン「政権継続」は同床異夢か

AI要約

与党「国民の力」のハン・ドンフン代表が、党大会での代表選出馬宣言翌日に記者たちにあいさつする場面が描かれる。

ハン代表の圧倒的な当選は、尹大統領との対立や次期大統領候補としての訴求力、そしてイ・ジェミョン反射効果によるものである。

尹大統領とハン代表の微妙な関係、そして尹大統領の李明博のような対応にかかっている今後の展望が考察される。

「与党内野党」自任したハン・ドンフン代表…尹‐ハン「政権継続」は同床異夢か

 与党「国民の力」のハン・ドンフン代表は、党大会での代表選出馬宣言翌日の6月24日、国会の記者室を回って記者たちにあいさつしたことがあります。ハンギョレのブースにはちょうど与党を担当する記者がおらず、いたのは野党担当の記者だけでした。

 記者はハン・ドンフン候補に「私は野党担当の記者ですが」と言いました。ハン候補はしばしためらった後、「私も近ごろはほぼ野党ですから」と言いながら握手を求めてきました。ハン候補はこの日、他の報道機関のブースでも、野党担当記者に同じあいさつをしたといいます。

■尹大統領、空虚な声掛け

 ハン代表が7月23日の党大会で62.84%の圧倒的得票率で当選した最も大きな理由は、彼と尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領との対立だと思います。「与党内野党」を自任することで、「変化」を求める国民の力の党員と支持者の要求に応えたのです。親尹錫悦系の議員は「裏切り者」とのレッテル貼りでハン代表を攻撃しましたが、それは失策でした。尹大統領とキム・ゴンヒ女史に失望した党員や支持者たちは、むしろ裏切り者を望んでいたようです。

 ハン代表の圧勝の2つ目の理由は、彼が次期大統領候補だったからです。彼のライバルたちは、今回選出される代表が次期大統領選挙に出馬するには、党憲・党規に則り、大統領選挙の1年6カ月前の2025年9月に代表職を辞さなければならないということを強調しました。ナ・ギョンウォン議員に至っては、次期大統領選挙への不出馬宣言まで行いました。ライバルたちのこうした主張は、党憲・党規に執着した近視眼的な判断ミスでした。もちろん、“生きている権力”である尹大統領を刺激せず、支援を期待しようという思惑もあったでしょう。しかし韓国の党員と支持者は、党憲・党規よりも政治的合意と共感の方がはるかに重要だと考える傾向があります。近ごろの数々の世論調査を見ると、国民の力の党員や支持者は明らかにハン代表を最も有力な次期大統領候補とみています。

 ハン代表圧勝の3つ目の理由は、「イ・ジェミョン反射効果」だと思います。国民の力の党員と支持者は、次の大統領選挙で最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン前代表が当選することを最も恐れています。「イ・ジェミョンに犯罪者の烙印(らくいん)を押し、最も確実に抑えられる人物は誰か」を選択の基準としたのでしょう。元検事の尹大統領に大きく失望しつつも、またも元検事の代表を選んだ理由はここにあります。もしかしたらハン代表は今、尹大統領を急速に代替しつつある、とも考えられます。

 ひとことで言えば、、7月23日の国民の力党大会は、尹大統領とキム女史という「現在の権力」とハン代表という「未来の権力」との一騎打ちで、この戦いで未来の権力が完勝したのです。

 党大会以降のメディアの論調も、概して多くは尹大統領の変化を注文するものでした。今月25日付の各新聞のコラムと社説を見てみましょう。

「ハン・ドンフン圧勝、尹大統領が受けた3度目の警告だ」(東亜日報のキム・スンドクのコラム)

「今や尹大統領が変わるべき」(東亜日報社説)

「『ハン・ドンフンのせいで総選挙に負けた』言い訳が審判を受けた」(朝鮮日報のキム・チャンギュンのコラム)

「『国民の目線』に合わせられるかに尹政権の成否がかかっている」(朝鮮日報社説)

「ハン・ドンフンの『国民の目線』、尹大統領にかかっている」(韓国日報社説)

 尹大統領は変わるでしょうか。党大会の翌日の夜、尹大統領は大統領室庁舎の屋外庭園でハン代表をはじめとする国民の力の新たな指導部と晩さん会を開き、次のように語ったそうです。

 「(ハン代表に)困難なことがあった時、放っておいて一人で解決させることなく、周りがちゃんと助けてやれ」

 「我々はこれから一つになって、ハン代表をしっかりと助けなければ」

 「党内選挙は、終わったらすべて忘れてしまわなければならない。今は『これからどうすればうまくやっていけるか』それだけを考えよう」

 空虚でしょう? 「目上の人」が「目下の人」にする儀礼的な声掛けにすぎません。党大会の結果にショックを受けてもいいはずですが、そのような気配は少しも感じられません。

■大統領と与党次期大統領候補の「微妙な関係」

 尹大統領は意地っ張りです。9浪の末に司法試験に合格しました。これまでの人生、自分の思うとおりに生きてきて名誉を得て、権力を獲得しました。そのような人は絶対に自分の「成功の方程式」を放棄しません。これこそ、「ハン・ドンフン代表阻止」に失敗したにもかかわらず、尹大統領は変わらないだろうと私が考える理由です。親尹錫悦系の国民の力の議員たちも、尹大統領とハン代表は人間的な信頼関係が崩れたため、関係の回復は難しいだろうとの見方を示しています。

 現大統領と与党の次期大統領候補との関係は、そもそも微妙にならざるを得ません。大統領の権力はあまりにも強力なため、現在の権力と未来の権力の共存は難しいからです。昔ながらの表現で言うと、二つの太陽が同時に空にあることはありえないのです。

 歴代政権の歴史はどのようなものだったのでしょうか。全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領は陸軍士官学校の同期でクーデターも共に起こした盧泰愚(ノ・テウ)を後継者に立て、政権継承に成功しました。にもかかわらず、回顧録には次のような内容を残しています。

 「私が誰を後任大統領と考えているのかということは、非常に敏感な事案であるだけに、盧泰愚本人にも目くばせすら絶対にしてはならなかった。一定の時期までは曖昧さを保つ必要があった」

 盧泰愚大統領と民主自由党の金泳三(キム・ヨンサム)総裁との関係はどうだったでしょうか。

 「私は金総裁のこのような行動に失望するあまり、『この人は国家の指導者として真に国の将来を少しでも考えているのか』という疑問を抱かざるを得なかった。すべての焦点を大統領選挙に合わせ、新たなイメージを打ち出したり、衝撃を与えて国民の期待と関心を集中させたりといったことばかりに総力を傾けているようにみえた」(盧泰愚回顧録)

 金泳三元大統領と新韓国党のイ・フェチャン候補との関係は最悪でした。

 「11月5日と6日、大邱(テグ)と慶尚北道地域の『必勝大会』を主催したイ・フェチャン氏は、私がイ・インジェ候補を支援しているとデマを流し、私に対する非難を並べ立てた。特に6日に浦項(ポハン)の屋内体育館で開かれた慶尚北道地域の必勝決起大会の式典行事では、イ・フェチャン氏の支持者たちが私を象徴する『03マスコット』を棒でたたくという、あきれた行動に出た」

 「私が作った党でこのような横道者のような振る舞いが繰り広げられるとは、私は非常に大きなショックを受けた」(金泳三回顧録)

 現大統領と与党の大統領候補の仲がもっとも良かったのは、金大中(キム・デジュン)大統領と盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補でした。金大中大統領は、民主党の大統領候補を選ぶ予備選挙に介入しませんでした。盧武鉉候補は金大中大統領との差別化戦術を断固拒否しながらも、大統領に当選しました。

 一方、盧武鉉大統領とチョン・ドンヨン候補の仲は非常に悪いものでした。

 「政治にも人間的信頼がなければならない。盧武鉉と差別化するためには、差別化する価値がなければならないはずだ」

 「しかし人気がないから、あなたの支持率が下がっているから差別化すべきだなどと言っては、差別化する側も得るものがない。これも人間的な裏切りだ」

 「あの選挙には事実上、与党候補が存在しなかった。盧武鉉政権の功罪の責任をすべて取るという候補は誰もいなかった。根拠もない『経済破綻論』を前にして反省すると言ってしまったのだから、何をもって選挙を闘うのか」(盧武鉉自叙伝『運命だ』)

 李明博(イ・ミョンバク)大統領と朴槿恵(パク・クネ)元代表との仲は非常に特異でした。

 2007年のハンナラ党の大統領候補選びで激突した二人は、2008年4月の第18代総選挙を前にして再び衝突しました。李明博大統領が公認から親朴槿恵系の人物を排除すると、朴槿恵元代表は「私もだまされ、国民もだまされた」と李明博大統領を非難しました。

 その後、李明博大統領が世宗市(セジョンシ)修正案を提出すると、朴槿恵元代表は国会本会議で自ら反対討論に立ち、世宗市修正案を否決に追い込みました。朴槿恵元党代表はこうした党内闘争を通じて「原則と信頼」という政治的資産と「与党内野党」という立ち位置を確保し、2012年の総選挙と大統領選挙で勝利しました。

■尹大統領が李明博のように?

 ハン代表が今回の党大会で尹大統領およびキム女史を批判し、「与党内野党」を自任したのは、かつての朴槿恵元党代表の戦略をベンチマーキングしたものとみられます。

 成功するでしょうか。その答えはハン代表ではなく、尹大統領が握っています。なぜなら、2012年の総選挙、大統領選挙の勝利の主人公は朴槿恵大統領でしたが、その土台には「私を踏み越えていけ」と容認してくれた李明博大統領の忍耐があったからです。

 今後、尹錫悦‐ハン・ドンフンのカップルが金泳三‐イ・フェチャンの道をたどった場合、共倒れになるでしょう。最悪の場合、尹大統領が離党し、国民の力が分裂する可能性もあります。一方、李明博と朴槿恵の道をたどっていけば、政権継承に成功する可能性もあります。繰り返しになりますが、尹大統領がどうするかにかかっています。

 まとめます。国と国民を導いていくには、未来を見通す見識と企画力、考えの異なる人々を説得し、妥協し調整する政治力が必要です。これまで検事しかしてきていない人間にはない能力です。検事は過去を裁断して処罰する人間です。検事出身者がうまく政治をやっていくためには、政治家に変身してからも学んだり経験を積んだりしなければなりません。尹大統領に政治的な、政策的な力量が足りないのは、彼が「検事大統領」だからです。にもかかわらず国民の力の党員と支持者たちは、次期指導者として、これまでの人生で検事しかしてこなかった人物をまたも選択しました。

 「検事大統領」。一度では足りないのでしょうか。 ハン代表が好きか嫌いかとは関係なしに、非常に心配です。みなさんはどうお考えですか。

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )