【イギリス総選挙2024】 画期的な総選挙が目前に、BBC政治編集長が解説

AI要約

総選挙の選挙戦は、ほとんど終わった。郵便投票も進行中で、世論調査の結果もほとんど変化なし。

保守党は大敗覚悟で、労働党がリード。スーナク首相は何を試みても見通しは変わらず。

労働党は政権準備を着実に進め、信頼を築きつつある。新興政党や自由民主党も注目されている。

【イギリス総選挙2024】 画期的な総選挙が目前に、BBC政治編集長が解説

クリス・メイソン BBC政治編集長

総選挙の選挙戦は、ほとんど終わった。

最近の前例によると、有権者の5人に1人がすでにここ数週間で、郵便投票を済ませたと思われる。

それ以外の人々にとっては、4日が大事な瞬間だ。

リシ・スーナク首相が首相官邸前でずぶぬれになりながら解散総選挙を発表してから、6週間。政治家たちが国民を説得して回る巡業が始まってから、6週間がたった。

この間、何が変わり、何が変わらなかったのか。そのことから、私たちが今どういう状況にあるのか、何がわかるのか。

この選挙戦の核心には、ひとつ際立つ事実がある。それはつまり、この1カ月半の間、これだけ騒いだにもかかわらず、世論調査でとてつもなく開いた労働党と保守党の支持率の差は、ほとんど微動だにしなかったという点だ。

保守党は上から下まで、敗北を覚悟している。場合によっては、壊滅的な大敗さえ。

世論調査に次ぐ世論調査で、労働党は大差をつけてリードしている。

労働党党首のサー・キア・スターマーと側近たちは、慢心して気を抜いてしまわないようにと、神経質すぎるほどになりながらも、政権を作るための準備を静かに進めてきた。

首相としての通常の職務中も選挙期間中も、スーナク首相が何を試そうとも、本人の政治的な見通しは大きく変わらなったようだ。

保守党はカメレオンのような自己変革が得意だ。そもそも私たちはこれまで、保守党を率いる首相が次から次へと、直前の前任者と自分は違うと主張することで、自分を定義しようとする姿を目にしてきた。

しかし、この戦略はやがて、保守党自身の矛盾と衝突し始めた。

スーナク氏は、保守党の長期政権に自分も貢献してきた、自分もその一部だと言おうとしたのか。それとも距離を置こうとしたのか。

イギリスは今、直面する無数の難問に直面している。そのうちのいったいいくつが、実際問題、保守党以外の政党のせいにできるのだろう。

過去14年間の保守党政権のもと、イギリスでは二つの国民投票が行われた。スコットランド独立の可否、そしてイギリスの欧州連合(EU)離脱の是非を問うものだ。これに加えて、新型コロナウイルスのパンデミックとウクライナでの戦争があった。こうしたもろもろの出来事が、保守党政権下のイギリスを形作ってきた。

2回の国民投票は、この国の国内政治の在り方と、最も近い国々との関係を作り替えた。

片方の国民投票は、スコットランド国民党(SNP)をかつてない高みへと押し上げた。しかし、SNPはその高みから、4日の投票で転落する見通しだ。

ブレグジット(イギリスのEU離脱)を決めたもう片方の国民投票は、欧州大陸とこの国と、そしてとりわけ保守党を、激しく揺さぶった。あの時の国民投票は保守党を奮い立たせ、ずたずたにし、今でも目に見える形で党を作りかえた。

2019年の総選挙で保守党から当選した党議員たちは、行き詰まるブレグジットの膠着(こうちゃく)になんとしても終止符を打ち、なんとしてもイギリスのEU離脱を実現したいと切望する有権者たちが、ロンドン政界に送り込んだ人たちだった。その顔ぶれは、実にありえない連立だった。

まるで積み木を崩していく「ジェンガ」のような組み合わせだった。イングランド北部の保守党支持者は、国の経済介入が増えることを望んでいた。その人たちと、イングランド南部に多い、小さい政府を好むのが伝統の保守党支持者との組み合わせは、実に心もとないもので、ボリス・ジョンソン氏の混乱を極めたリーダーシップのもと、たちまちぐらぐらと揺らぎ始めた。

そして、ほとんどの人は政治にほとんど関心を持たないのが常だが、政治にほとんどまったく関心のない人たちでさえ、しかもそれはイギリスにいようが世界のどこにいようが、2022年秋にはどうしたって気づいた。もう長いこと政治的に予測可能な安定の砦(とりで)だったはずのイギリスで、数週間のうちに首相が3人も交代したことを。

この文脈でいうと、日々のニュースの雑音を排除できる歴史書はいずれ、リシ・スーナク氏を温かく評価するのではないかと、私は思っている。それまでの前例からすれば、もはやほとんど耐え難いかと思われた政治的逆風に、立ち向かった人として。そうすることで、政治的・経済的安定がまったく失われていたイギリスにある程度、その両方をもたらした人として。

しかし、笑いものだったこの国が外国から笑われないようにしたところで、それが総選挙で勝てる方程式にはなるはずもなかった。2007年~2008年の経済危機を発端にした、情けないほど弱々しい経済成長が20年近く続いた後の、よく言っても低迷しているとしか言いようのない経済を運営したところで、それもやはり総選挙で勝てる方程式にはなるはずもなかった。

そしてもうひとつ。総選挙で5連勝した政党は現代ではない。

それこそが、スーナク首相の目線で言うならば、歴史の残酷な真実だ。そして、その残酷な真実に向かって、スーナク氏は明日、歩いていく。

他方、労働党のキア・スターマー党首の目線からすると、もうひとつの残酷な真実がある。つまり労働党は、選挙で勝つよりも負ける方が、はるかに多いのだ。しかも、勝つと思われている選挙でさえ、労働党は負けるのだ。

労働党はこれまで、総選挙で4連敗している。

今回の選挙戦では、どこかの時点で、労働党がふらついたり、パニックに陥ったりするはずだと、そう予測していた人もいるだろう。特に、保守党が追い上げてきているとなった場合には。労働党はこれまで慎重で、そして規律を守っていた。ただ勝つだけでなく、安定多数を得るために、十分と思えるリードを、几帳面に守ってきた。

労働党の人たちは、政権党としての「使命」について、よく口にする。

国民を安心させること。それが野党としての労働党の使命だった。最近まで保守党に投票してきた有権者に、労働党は信頼できると示すことが。しかも、経済と国家安全保障についても、労働党は信頼できると。

自分たちは次の政権与党――だと慢心していると、決してはたから思われないように。そうしながらも同時に、自分たちは信頼に足りると示す。この難しい綱渡りをやってのけようと、労働党は苦心してきた。自分たちが政権を取ればこれとこれは確実にやる――とは保証しないながらも、何をやりたいのかは示そうともしてきた。

もし自分たちが選挙で勝ったとして、政権政党として受け継ぐのは、暗澹(あんたん)たる国家財政と、ざわつく有権者だ。それも労働党は承知している。どれほど圧勝したとしても、有権者が楽観的な気持ちで、政府に好意を寄せてくれることは、あまりありえないと。

しかも、仮に圧勝しても、物事が楽になるとは限らない。

スターマー党首はつい先日、ノッティンガムシャー・ハックナルで私に、保守党がそうしてきたように労働党政権も、刑務所が満員なので、受刑者の早期釈放を続けるだろうと認めた。

労働党は世論調査の支持率で、頑ななまでにリードし続けている。しかし、それと共に今回の長い選挙戦で注目されたのが、ナイジェル・ファラージ氏の登場だった。いかにもファラージ流に、世間をじらし続けた挙句、新党「リフォームUK」の新代表として、そしてその候補として、政界に再登場した。

絶えず笑顔のファラージ氏は、保守党にとっては悪夢そのものだ。世論調査でファラージ氏の党が支持率を伸ばせば、その分だけ実に多くの保守党関係者の血圧は上がる。

加えて、注目すべきだと私は思う新人が、イギリス政界に現れた。ジア・ユスフ氏だ。

ユスフ氏は大成功を収めた30代のIT系起業家で、リフォームUKに何十万ポンドも寄付している。

加えてユスフ氏はイスラム教徒だ。そもそもそういう人がリフォームUKを支持するというのも、直観の逆を行くだけに、どちらも興味深い。

しかし、週末にバーミンガムで開かれた大規模集会でユスフ氏の話を聞いたところ、リフォームUKの政治的主張は、ナイジェル・ファラージ氏のそれとは明らかに違っていた。

情熱的で信念に満ちていることに変わりはない。移民問題は今や制御不能だというユスフ氏の意見も、ファラージ氏に通じる。ただし、その物言いのトーンが違う。

もしユスフ氏の政治への関心が続くのなら、将来は政治指導者になるのだろうか。私はついついそんなことを考えていた。

次は、野党・自由民主党だ。もし、奇妙なふるまいが選挙での必勝法だったなら、自由民主党は圧勝するはずだ。

党首のサー・エド・デイヴィーは、中年期の不安状態、いわゆる「ミッドライフ・クライシス」に襲われがちな年頃だ。それがたまたま総選挙と重なったからなのか、次から次へとおかしな行動が続いている。

イギリス政界の二大政党、保守党と労働党に常に隅に追いやられてきた自由民主党は、なんとかして私たちの注目を集めようと、常に苦心してきた。二大政党に圧倒されてきただけでなく、実にここ10年ほどの下院では、スコットランド国民党(SNP)にも第三党の座を奪われてきただけに、その苦労はなおさらだった。

それだけに、今回の選挙戦でデイヴィー党首が次々と披露する派手な行状は確かに、私たちの目を奪った。加えて、党首は幼いころに両親をがんで失い、しかも今では障害のある息子の父親だ。それだけに、注目集めのためにどれだけ荒唐無稽なまねをしたとしても、苦労人の彼がまじめで思慮深く、多くの人々の苦労を理解している政治家だという言い分には、説得力がある。

自由民主党は、勢いづいている。労働党を決して好まない選挙区で、有権者の多くは保守党を軽蔑している――。自民党はそう確信している。そして、その有権者感情を利用できると確信している。

ただし、自由民主党の内々の予測からして、そしてSNPが内々に恐れる自由民主党の躍進ぶりからして、自由民主党がSNPを追い抜いてイギリス下院で第三党になることは、可能性としてはありえそうだ。

もしそうなれば、スコットランド独立の是非を問う住民投票の再実施に向けた政治的な勢いは、後退することになる。そして、自由民主党の発言基盤が強化され、毎週の首相質問の時間には、自由民主党も確実に参加できるようになる。

加えて、イングランドとウェールズには緑の党がある。

緑の党がかなりの勢力をつぎ込んでいるブライトン、ブリストル、サフォークの一部では、どういう結果になるのだろう。

結果が楽しみだ。

言い換えれば、政治の形は二大政党の間で決まるだけでなく、その圏外でも再編される可能性がある。

私たちは、おそらく画期的なことになる総選挙を目前にしている。

しかし、こういう話をし続ける私のような者に残された時間は、もうあまりない。

すべては間もなく、国民の皆さん次第だ。5日の朝にどういう事態になっているのか、それを決めるのは、皆さんなのだ。

(英語記事 Chris Mason: We stand on the threshold of a landmark election)