援助物資届かず略奪横行……ガザ南部の現状、イスラエルと国連は互いを非難

AI要約

ガザ地区での人道支援物資の不足と略奪が深刻化しており、国際援助機関とイスラエル当局の対立が表面化している。

イスラエル軍の制限や無法状態により、物資の移動が困難であり、住民は食糧不足に苦しんでいる。

国際的な支援が住民に届かず、ガザ地区では絶望感が広がっている。

援助物資届かず略奪横行……ガザ南部の現状、イスラエルと国連は互いを非難

ヨランド・ネル中東特派員

イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区の境界線、パレスチナの人々が飢えている場所から数キロ離れた炎天下に、数百枚ものパレットに積まれた食料が積みあがっている。内容は、米の入った袋からバナナの山までさまざまだ。

イスラエル軍はこの1週間、ケレム・シャローム検問所を通過した先の主要道路で、日中に戦闘を停止しているが、援助機関はなお、ガザ南部になかなか必要な物資を届けられずにいるという。

物資を受け取って移動させるにも、周辺の無法状態が増しているため、危険すぎるという。

「今や略奪は実に深刻だ」と、国連人道問題調整事務所(OCHA)のガザ代表を務めるゲオルギオス・ペトロポウロス氏は指摘。18日には、トラックに積載されて検問所からガザ入りした物資の4分の3が盗まれたようだという。

国連関係者によると、車両は武装集団によって組織的に襲撃され、停止させられる。この集団は、特にガザの闇市場で法外な値段で取引されるたばこの密輸を中心に行っているという。ガザに燃料を運ぶトラックも、最近狙われるようになった。

イスラエルの軍事攻撃でガザのハマス政権が排除されたが、権力の空白をどうやって埋めるかの計画はない。また、パレスチナ自治区で働く警察官はほとんど残っていない。一方で、組織犯罪カルテルが、ハマスやガザの住民グループなどと関係があるかは不明だ。

ペトロポウロス氏は、「ガザの治安維持のために何をすべきか、またそれを誰が担うのかについて、意味のある決断をいま下さなくてはならない」と述べた。

検問所を運営するイスラエル占領地政府活動調整官組織(COGAT)は、記者団にケレム・シャロームを案内した際、ガザ地区に送られる援助の量に制限は設けていないと語った。記者らはここで、1000台以上のトラックに積まれ、ガザ地区側からの回収を待っている、セキュリティーチェックを受けた援助物資の積み残しだというものを見せられた。

COGATのシモン・フリードマン報道官は、「これは主に、国際機関が流通能力の向上に向けた十分な措置を講じてこなかったことが原因だ」と語った。

フリードマン報道官は、ガザ地区への援助提供の中心となっている国連が、トラックを十分に供給していないと批判。また、「人員を増員し、勤務時間を延長し、貯蔵量を増やす」など、「物流面や組織面での対策」を取る必要があると訴えた。

国際司法裁判所(ICJ)が、ガザへの人道支援を認めるようイスラエルに命じる仮処分を2度下したしたことから、イスラエルは戦争中、援助団体への批判を強めている。ICJの命令は、イスラエルが1948年のジェノサイド条約に違反しているとする南アフリカの申し立てを受けたもの。イスラエルは強くこれを否定している。

国連や援助機関は、援助活動が人手不足で非効率だというイスラエルの主張に反論し、戦闘が活発な地域での活動の厳しさを強調する。また、イスラエルの爆撃によってインフラが損なわれ、能力が低下したと述べている。

「アメリカ近東難民援助(ANERA)」のショーン・キャロル会長は、「私たちは、援助物資を配布するために何十人ものスタッフと何百人ものボランティアを新しく採用した。2800万食分の食事と600万回の医療行為を提供した。つまり、(明らかに)人手を集めることはできる」と語った。

一方で、「戦争のため物資の運搬が危険になったり、道路が通行不能になったりした場合」や、「ガザ地区内に十分な燃料やトラック、部品がない場合」には、作業員を増やしても助けにならないのだと指摘した。

ANERAは、COGATが今週、ガザへのトラック輸送の拡大を許可すると約束したことを歓迎し、現在、緊急にこれらのトラックを購入するための活動を行っているという。

しかしキャロル氏は、物品の移動に関しては「規則や手続きが常に変わる恣意性」という問題が依然として残っている、と語る。

援助団体は、5月にイスラエルがガザ南部ラファの人口密集地に地上侵攻を開始し、そこに残っていたハマスの戦闘部隊を標的にしたことで、すでに過負荷状態だったガザの救援システムが崩壊したと強調している。

この攻撃により、約100万人のパレスチナ人が避難を余儀なくされた。その大半は、戦闘によってすでに家を追われている人たちだった。人道危機は深刻化し、同時に援助団体は、重要な貯蔵・流通センターへのアクセスを失った。

イスラエル軍がラファ検問所のパレスチナ側を占領して以来、エジプトは人道支援活動を行うには安全ではないとして、同検問所の使用を禁止している。現在、援助物資と燃料はケレム・シャローム検問所に移送されている。

国連によると、5月のガザ地区への援助物資輸送トラックの1日平均台数は97台で、前月に比べ42%減少した。6月の最初の2週間では、台数は89台とさらに減少した。

近くのハンユニスでは、ガザ住民がBBCの取材に対し、国際的な支援が一切届かないと話した。

マハムード・アルビスさんは、「ラファにいた時は、援助物資を時折目にした。20日前にここに来てから、まだ何も見ていない」と話し、2人の子どもに食べさせるのに苦労していると述べた。

地元住民によると、絶望感が増すにつれ、人々は支援物資を積んだトラックから略奪せざるを得ないという悪循環に陥っている。ひまわり油や砂糖など、支援物資の一部が市場で売られているようだ。

ハサンという名の男性は、「今、この国は混乱状態だ。援助を受けるための券はもはや届かず、援助が届いても私たちはそれを盗んでいる」と話した。

イスラエル当局は物資不足を補うため、ガザの民間人がイスラエルや占領下のヨルダン川西岸地区から物資を運ぶのを許可し始めた。 国連輸送車とは異なり、これらのトラックは民間企業が契約した武装警備員を同行させることができ、襲撃から身を守ることができる。しかし、こうして持ち込まれた物品の多くは、ガザのほとんどの住民が手が出ない価格だ。

イスラエルはケレム・シャロームのほか、ガザへの境界を3カ所、開放している。いずれも、国連が飢餓の危険が最も高いと警告しているガザ北部への支援物資の搬入に利用されている。

国際的な空輸支援は現在、ほぼ停止しているが、キプロスからの海上輸送ルートは20日から再稼働した。米軍が2億3000万ドルをかけて設置した浮体桟橋には、OCHAのペトロポウロス氏が「失敗」と評するほどの難題が相次いでいる。

イスラエルではこの1週間、ガザ地区で深刻な食糧不足への対処をめぐり、政治的な抵抗が表面化した。これによって、政府と軍の間に異例の亀裂が生じている。

ケレム・シャローム検問所付近で「戦術的一時停止」が実施されていることについて、イスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官に尋ねたところ、同氏は「ガザに人道支援を提供するという内閣命令に従うため」の対応だと述べた。

この「一時停戦」については、イスラエルの極右閣僚ベザレル・スモトリッチ財務相らが協力に反発したが、ハガリ報道官はその影響にあまり言及しようとしなかった。

スモトリッチ氏はX(旧ツイッター)で、パレスチナ領土への物資供給を増やすことはハマスの利益となり、ハマスの権力を維持し、「戦争の成果を台無しにする可能性がある」と書いている。

ガザ地区に向かう援助物資輸送車を攻撃するイスラエルの過激派グループも、同様の主張をしている。

ANERAのキャロル氏は、イスラエル側の「政治的理由」が、ガザ地区への物資供給を難しくする一因だと指摘。「問題があるのは明らかだ。もしそれが単に流通上の問題なら、解決できるはずだ」と述べた。

OCHAのペトロポウロス氏も、「我々は、きちんと機能し誠意に基づくシステムを見つける必要がある。それは最終的には、国連に対する一定の信頼が前提となる」と語った。

ハンユニスでは、家族のために必需品を買い求める男性たちがは、追い詰められ、疲れ果てた様子で不満を漏らしていた。

「こんなに辛い状況はない」と、前出のマハムード・アルビスさんは言う。「私は家を失い、残されたのは子供2人だけで、なんとか生き延びようとしている。誰も支えてくれない」。

(英語記事 Inside Gaza aid depot: Food waits as Israel and UN trade blame)