「知ることから始めよう」―偏見や差別をなくすために:日本人ムスリムの訴え

AI要約

日本に住むイスラム教徒の増加と、正しいイスラム教理解の重要性。

東京にあるモスク「東京ジャーミイ」を通じてイスラム文化の普及と理解を促進。

日本人ムスリムの下山茂さんの体験を通じて、イスラム教の魅力と自己成長について紹介。

「知ることから始めよう」―偏見や差別をなくすために:日本人ムスリムの訴え

住井 亨介

日本に住むイスラム教徒(ムスリム)が増えている。およそ23万人、「500人に1人」とする推計もある。だが、イスラム教は「遠い地域の宗教」というイメージが日本では根強い。「まず知ることが必要」。長年にわたって正しいイスラム教理解のために奔走してきた日本人ムスリムは訴える。

東京都渋谷区の閑静な住宅街に、ひときわ目を引く建物がある。高くそびえ立つミナレット(塔)と大きなドーム。「東京ジャーミイ」と呼ばれる、オスマントルコ様式のモスク(イスラム教徒の礼拝堂)だ。ムスリムではない人々も多く訪れ、若い女性たちは「インスタ映え」すると、しばしば写真を撮って発信するという。イスラム教の戒律に従った製品であることを示す「ハラル認証」を取得した食品などを販売するショップもあり、大勢の人でにぎわう。

「礼拝時に横一列に並ぶのは、人間は神の前では皆きょうだいで、差別してはいけないというメッセージです」。美しいステンドグラスなどで飾られたドーム内に、東京ジャーミイで広報を担当する日本人ムスリム、下山茂さんの声が響いた。ムスリムの多いマレーシアなどへの修学旅行の事前学習のために訪れた、さいたま市立大宮北高校の生徒を前に、イスラム教の礼拝や作法を説明する。

アラビア数字やカメラの原理など、ムスリムが生んだ身近なものを例に挙げながら、生徒の興味を引き寄せていく。緊張をほぐしてから、イスラム教の歴史的な背景や考え方を語り始める。

引率した同校の芝田祐真教諭は「生徒のイスラム教へのイメージが変わったようです」と話す。「まずイスラム教に関心を持ち、知ってもらう」ことに意を注ぐ下山さんの変わらぬスタイルは、自身の体験からきている。

19歳のとき、早稲田大学の探検部に所属し、ナイル川の流域踏査隊の一員としてアフリカ・スーダンを訪れた。日本から持参した最新鋭のテントや簡易ベッドでは現地の暑さに対応できず、やむなく現地の村々で宿を求めた。そこで受けた厚情がイスラム教の教えに基づくものだと知り、それまで抱いていた「イスラム教徒は怖い、厳しい」といったネガティブなイメージが覆された。

帰国後、イスラム教を知れば知るほど、それを伝えたいという思いが強くなり、27歳で入信した。「イスラムの世界に触れた僕の感動を、日本の人に伝えたかった」。書籍を読み、礼拝や断食など身体を通じた「修行」を重ねるうちに、自身に変化が現れた。「あれほど嫌いだった宗教が素晴らしいものだとの思いが自分の内側から出てきた。信仰心によって自分自身が強くなっていくのを感じた」

経験からあふれ出る強い思いは、75歳の今も変わらない。「だから、今でも修行中です。日本人のハート(心)にイスラム教という世界宗教がタッチできるかどうかを、僕は試行錯誤してやっている」