侍ジャパンが大谷翔平とダルビッシュ有に驚いたこと。トラックマンを導入したアナリストも驚嘆した1球1球確認する理由

AI要約

「トラックマン」を日本野球機構に導入するための提案が行われた背景にはWBC仕様球とNPB公認球の違いがあった。

投手たちが自身の投球データを細かくチェックする姿勢が評価されるようになっていた。

ダルビッシュ有が「トラックマン」を使って投球データをチェックし、他の投手たちにも影響を与えていた。

侍ジャパンが大谷翔平とダルビッシュ有に驚いたこと。トラックマンを導入したアナリストも驚嘆した1球1球確認する理由

プロ野球の現場では、あらゆることがデータで分析されている。

その一つがデンマークの企業が開発した弾道測定分析機器「トラックマン」だ。

この「トラックマン」野球部門責任者の星川太輔は、2023年のWBCに挑むにあたり、侍ジャパンチームへの導入をNPB(日本野球機構)に提案していた。

それは、2023年大会ではWBC仕様球とNPB公認球のギャップが焦点となっていたからだ。

すでにNPBのほとんどの球団で使用され、操作・分析するアナリストもいたが、選手の機密情報を握る各球団のアナリストがWBCで他球団の投手の投球データを把握するのは好ましくないとの理由から、星川の参加が決まった。

広尾晃さんの著書『データ・ボール アナリストは野球をどう変えたのか』(新潮社新書)から、ダルビッシュ有と大谷翔平がこの「トラックマン」をどう使っていたか、一部抜粋・再編集して紹介する。

弾道測定器「トラックマン」の野球部門責任者、星川太輔たちは、まず各球団の投手のNPB仕様球での「トラックマン」のデータとWBC仕様球でのデータとの比較をすることにした。

投手たちも興味を示した。自分の今の球が、普段とどれくらい違う変化をするのかを知りたかったのだ。

「トラックマン」がNPB各球団に導入されて10年近くが経つ。侍ジャパンに参加した投手は、自分たちのデータを読んで一通りは判断できるレベルに達していたのだ。

これは2009年の第2回大会とは大きな違いだった。

WBCのボールを実際に投げると、どういう変化量になるのかは、日本の投手陣が集結する宮崎キャンプのブルペンで計測することになる。

「トラックマン」は1台しかないので、4人が投げられるブルペンの一つに設置した。一度に全員を計測することはできなかったが、できるだけ多くの投手のデータを取ろうとした。

キャンプ2日目、最初にブルペンに上がったのが、サンディエゴ・パドレスのエースとなっていたダルビッシュ有だった。星川が、「『トラックマン』持ってきているんですが、データ取りますか?」と聞くと、ダルビッシュは使いたいと答えた。

「トラックマン」を設置したレーンでダルビッシュが投げる。日本の場合、投げ終わってからデータをチェックする投手が多い。星川はその習慣を知っていたから、タブレットを自分の手に持ってトラブル時に対応しようと思っていた。

しかしダルビッシュは1球1球画面をチェックしたがった。そこでマウンドの横に椅子を置いて、そこにタブレットを置くことにした。

ブルペンには、多くの投手が詰めかけていた。彼らは捕手の後ろ側に陣取って、ダルビッシュの一挙手一投足を食い入るように見つめていた。

「トラックマン」や「ラプソード」などの計測機器はNPBのすべての球団で導入しているから、投手はこれまでも、日常的に自身の投球の回転数や回転軸、変化量などのデータを目にしていた。

しかし多くの投手は投げ終わってから数字を見るだけで、ダルビッシュのように1球1球チェックする投手は、ほとんどいなかった。

選手たちはダルビッシュの姿勢を見て、データへの認識を改めようとし始めていた。