中村憲剛、内田篤人らがS級の同期で研修先は現役時代ボランチを組んだ鬼木達監督率いる川崎。ルヴァンカップの裏側にあった大塚真司“新米監督”と甲府の挑戦

AI要約

ルヴァンカップの準々決勝第1戦で、川崎が甲府に1-0で勝利。甲府は後半でVARの結果で川崎の得点が取り消されたものの、リターンマッチに向けて闘志を燃やしている。

甲府監督の大塚真司は選手と共有した戦略やVARの結果について言及し、チーム一体の力を強調。リターンマッチに向けてポジティブな気持ちを持っている。

大塚監督は古巣・川崎との対戦について、過去のつながりや想いを語る余裕がないほど勝負に集中している様子を示しており、常に勝利を目指す姿勢が伺える。

中村憲剛、内田篤人らがS級の同期で研修先は現役時代ボランチを組んだ鬼木達監督率いる川崎。ルヴァンカップの裏側にあった大塚真司“新米監督”と甲府の挑戦

[ルヴァン杯・準々決勝・第1戦]川崎 1-0 甲府/9月4日/Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu

「質問していただいてありがとうございました」

 ルヴァンカップの準々決勝の第1戦、甲府が川崎に0-1で惜敗した試合後、スタジアムの廊下で、こちらが恐縮するほど丁寧に声をかけられた。その言葉の主は甲府の大塚真司監督である。

 J1の川崎とJ2の甲府が対戦したゲームは、27分の遠野大弥のゴールで先制した川崎がそのまま逃げ切った。もっとも後半にはVARの介入によるハンドの判定で川崎のエリソンのゴールが取り消しになるなど、最少失点で自らのホームに戻れる甲府にとっても、アップセットに向けて大いに可能性を残した試合と言えただろう。

「結果的に0-1の敗戦になりましたが、選手と共有したのは、(180分の)前半が終了したと。前半終了で0-1、また後半自分たちのホームで臨んでいけるとういうことで、チャンスは大きくあると選手と共有しました。

 あと後半の大きなところと言ったら、VARですね。我々J2にはVARがなく、いろいろなチームがいろんな思いをしている中で、今日はVARがあって、まったく僕自身そこを気にしていなかったですが、そのVARの結果で0-2が0-1になったということで、またさらにポジティブにこの週末に我々は向かっていけると感じています

 チーム一体というのは我々のキーワードですから、そこをもう1回固めて、このすばらしい川崎フロンターレという強いチームに立ち向かっていきたいなと思っています」

 大塚監督もリターンマッチへ闘志を燃やした。

 現役時代、川崎や大宮などでプレーした大塚監督は、昨年、S級ライセンス取得に挑戦。ひとつのカリキュラムであったJクラブでの研修において、受け入れてくれたのが川崎であった。

 期間中は鬼木達監督や他のコーチングスタッフらと行動をともにし、貴重な経験を積んだ。

 ノウハウを余すところなく伝えた鬼木監督の指導者の“卵”に対する言葉も印象深い。

「全部包み隠さずと言いますか、全部見てもらってというところですね。なので、全部バレているか(笑)。でも僕がいろいろ話しても、最後、その人のオリジナルで必ず勝負しないと監督って絶対成立しないと思っているので、僕もいろんな人から学びますけど、最後は結局、いろんな人の考えをどうかみ砕き自分のものにしていくか。

 全部が僕の考えになるわけではないだろうし、必ずその人、その人の特長のなかで一部を必要と思えば、上手くやってくれれば良いと思っています。だから全部さらけ出していますし、そこをどう思うか。これは選手を含め誰と接する時でも同じですが、僕が話したことをその人がどう感じるかですから」

 ちなみに大塚監督のS級の同期は中村憲剛、内田篤人、大黒将志、北嶋秀朗、明神智和、佐藤由紀彦、中後雅喜ら錚々たる面々であった。

 実際に筆者が監督会見で聞いたのが、この部分であった。7月に篠田善之前監督に代わり、コーチから昇格する形で、自身初のプロクラブでの指揮官に就任した大塚監督にとって古巣・川崎との等々力でのゲームは特別な一戦になったはず。その想いを語ってもらいたかったのだ。答えはこうだった。

「そうですね、だいぶ古い、昔の話になりますが、選手として4年間(1997-2000)在籍させてもらい、鬼木さんとも一緒にダブルボランチでプレーさせてもらいましたし、昨年もS級の研修で快く中に入れてもらって、多くの選手やスタッフと交流することができました。

 そんな相手との試合でしたが、実際この試合に向かうにあたっては、そういったことを考える余裕は僕にはまったくなく、もうちょっと余裕があればそういった思いも感慨に浸ることもできたと思いますが、今も余裕がないので、もう次のゲームに向かって、川崎フロンターレに勝つということだけを、それだけ考えてやっていきたいなと思っています」

 常に目の前の勝負に臨み、最後まで戦い切る、大塚監督の人間性が表われた言葉であり、それは甲府というチームの真骨頂でもあるのだろう。

「多く来られるというのは耳にしていましたが、実際、ベンチに入ってみると、自分が予想した以上のサポーターの人数であったり、迫力であったり、声援、後押しを感じることができました」(大塚監督)と、この日も平日ながらアウェー席には多くの甲府サポーターが顔を揃え、試合後には大声援でチームの背中を押した。

 日本サッカー史上に残る下剋上とも言われた、J2クラブとしての天皇杯制覇も記憶に新しい。甲府はその2022年の優勝で出場権を手にしたACLでも果敢に戦い、今季のリーグの開幕前には決勝トーナメント一回戦で蔚山に敗れたとはいえ、最後まで諦めない姿勢を示していた。

 この試合にも途中出場した川崎の左SB三浦颯太のように甲府を躍進させ、ステップアップを決断した選手もいるが、あのアジアでの大冒険はクラブの血肉となっているに違いない。

 果たしてルヴァンカップでも改めて底力を示せるのか。鬼木監督と大塚監督の采配も含めて、小瀬での第2戦は、俄然、楽しみなゲームになってきた。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)