高額賞金に代え難いメダルの価値……。プロゴルファーが“五輪重視”になった理由とは?

AI要約

日本は金20個、銀12個、銅13個のメダルを獲得し、ゴルフでは松山英樹が男子の銅メダルを獲得し、山下美夢有が女子の4位で涙する結果となった。

五輪を通じて松山英樹や山下美夢有などのプロゴルファーが賞金のない状況で国・地域を代表して戦った意義や重要性について考察する。

五輪出場選手たちが自らの成績や喜び、悔しさ、将来への希望について語る中で、ゴルフ競技が五輪での特別な体験や感慨をもたらしたことが示唆される。

高額賞金に代え難いメダルの価値……。プロゴルファーが“五輪重視”になった理由とは?

パリ五輪が11日(現地時間)に幕を閉じた。日本は金20個、銀12個、銅13個のメダルを獲得した。リオデジャネイロ五輪以来、3大会連続で実施されたゴルフでは、松山英樹が男子の銅メダルで喜び、山下美夢有が女子の4位で悔し泣きした。普段は試合で高額賞金を手にするトッププロたちが、賞金のない五輪で国・地域を背負って戦った。その真剣な姿、結果がもたらす意義を考察した。

パリのゴルフ・ナショナル。戦い終えた山下がJLPGA(日本女子プロゴルフ協会)の小林浩美会長に抱擁され、感極まった。世界の強者たちがそろった五輪で4位。だが、取材対応でも笑顔はなく「やっぱり、メダルを取らないと……。そこを目指して今週はやっていたんで、この結果は」と話した。

今季の山下はこの場に立つため、必死にプレーしてきた。出場権を手にするには、世界ランキングで日本人上位2人に入る必要があった。そして、最終決戦の大会となった海外メジャー・全米女子プロ選手権(6月20日~23日)で2位に入り、逆転で切符を手にした。「特別な大会。頑張りたい」。東京五輪で稲見萌寧が銀メダルを獲得したときのように、表彰台に立つためにさらにモチベーションを上げていた。

それは3年前、東京五輪の後に稲見に起きた「変化」も目の当たりにしていたからだろう。稲見は言っていた。

「メダルを獲ってから、たくさんの人に応援していただけるようになりました。特に子どもたちから名前を覚えてもらって」

五輪のテレビ中継は多くの人々に見られる。その競技の知識がなくても、懸命に選手たちを応援し、たたえる。つまり、稲見はゴルフファン以外からの知名度も上げた。この事実を多くのゴルフ関係者が「業界にとっては、ものすごく大きなこと」と捉えていた。

日本人プロゴルファーの海外メジャー制覇の例はある。女子では樋口久子、渋野日向子、笹生優花、古江彩佳が達成。男子でも松山が2021年のマスターズで初優勝を飾った。松山が悲願を達成した直後、TBSの放送席で解説の中嶋常幸と宮里優作が「本当にすごいことをしてくれた」と感涙したほどだった。だが、当時、スポーツ分野での最大関心事は大谷翔平のMLBでの活躍。日本人が初のマスターズ王者になった「ものすごさ」が十分には理解されていない現実に、「ゴルフとはそういう位置付けなのか」と嘆くプロゴルファー、関係者が多くいた。

あれから3年。松山がパリ五輪で銅メダルを獲得した。ゴルフファン以外からも応援され、称賛された。本人は「隣に金メダルをかけている人がいるので、うれしい半面、悔しいような気持ちでいます」と言いながら、「3位で(メダル)をもらうことはまずない。そこはうれしいな」と言った。マスターズ王者も五輪ならではの感覚を味わい、メダルの重みを感じていた。

1900年と1904年の2回にわたって開催された五輪のゴルフ競技。その後は五輪から除外されていたが、2016年のリオで復活した。しかし、当時はブラジルでジカウイルス感染症(ジカ熱)が流行。治安への懸念もあり、代表選手が次々と出場を辞退した。世界1位のジェイソン・デイ(オーストラリア)、ローリー・マキロイ(北アイルランド)やアダム・スコット(オーストラリア)、同年のマスターズ覇者ダニー・ウィレット(イングランド)ら大物が出場を断念し、松山も「不安を抱えながらではベストなコンディションで臨めない」との理由で辞退した。

コロナ禍で開催の東京五輪でも辞退者が出た。世界1位のダスティン・ジョンソン(米国)は「東京までの旅は遠くて大変だ。その時期、僕はPGAツアーで戦うことに集中したい」と五輪を重視しないコメントをしていた。だが、復活から3大会目となったパリ五輪に出場したマキロイは「僕たちには年4回、金字塔というべき大会(メジャー)がある。でも、いずれは五輪もメジャーと肩を並べる大会になると思う」と話した。トッププロの五輪への意識が変わってきたことを示す象徴的なコメントだった。

現実に金メダリストになったスコッティ・シェフラー(米国)とリディア・コ(ニュージーランド)は、共に涙を流してこの4年に1回のビッグタイトルを喜んだ。そして、松山は東京五輪で7人の銅メダルを懸けたプレーオフの末に4位だった後の悔しさを振り返り、「今回は獲ることができてうれしい」「これ(銅メダル)をきっかけにゴルフを始めてくれる子がいたらうれしい」などと語った。

賞金はないが、松山にはJOCからの100万円と日本ゴルフ協会からの600万円の計700万円の報奨金が支払われる。もっとも、今季米ツアーで11億円以上を稼いでいる松山にとっても、メダルの価値は高額賞金にも代え難いものがある。それがわかってきたからこそ言った。「4年後も絶対に出たい」。2028年の米ロサンゼルス五輪は今年2月、松山が米ツアーでアジア勢単独最多9勝目を挙げたリビエラCCで開催される。「今年勝ったコース。ロスは知り合いも多い。そういう意味でもね、絶対出たい。4年間また頑張んなきゃいけないな」。そして、メダルを逃した山下も「また出たいです」と言った。今回、五輪出場を逃したライバルたちも同じ気持ち。日本人プロの間では、五輪のゴルフは既に金字塔になっている。